物質・材料研究機構(NIMS)と米コネティカット大学は,ポリジメチルシロキサン(PDMS)という汎用材料の表面に形成したナノ/マイクロメートルスケールの周期構造(周期微細構造)を,ガラス基板に簡単に転写できる手法を開発した(ニュースリリース)。
周期微細構造は,その構造に応じて多様な機能が発現するため,長年注目されてきたが,従来の作製方法では高価で大型の装置や長時間の処理が必要であり,大面積への適用も困難だった。印刷による作製も可能だが,周期微細構造を形成するための「インク」の種類や補充が課題となっていた。そのため,これらの課題を克服し,周期微細構造を簡便に作製できる手法の開発が望まれていた。
今回,研究グループは,固体PDMS表面にひだ状の周期微細構造を形成し,ガラス基板に貼って剥がすだけで構造転写する技術を開発した。この手法では,固体PDMS内部に意図的に残存させた液体PDMSが滲み出すことでインクとして機能し,繰り返し転写が可能。転写された PDMS は液体のままでは不安定だが,10秒程度のアルゴンプラズマ処理により構造を速やかに安定化させることができる。
転写される周期微細構造は,PDMS表面の構造に依存するため,PDMSの表面構造を制御することで,ひだとひだの間隔や大きさを調整し,転写される周期微細構造も自在に変えることが可能(PDMS表面のひだ状の周期微細構造は,一定の長さに引き伸ばしたPDMSを酸素プラズマ処理し,引張力を解放することで容易に作製できる)。
一度転写した構造の上から,90°あるいは 45°回転させて再度転写を行なうことで,柱状などのより複雑な形状も実現できる。転写される構造の面積は PDMS 片のサイズに依存するため,大面積化も容易と考えられるという。
さらに,シリコーンオイルやシリカナノ粒子などを含む構造も転写できる。これにより,用途に応じた特性を持つ周期微細構造を設計することが可能だとする。
研究グループは,結露防止素材や発色を利用したガスセンサに加え,超撥水・超撥油表面や水捕集など社会的ニーズの高い応用を目指すという。まずは,転写可能な周期微細構造のバリエーションを増やすため,実験条件の最適化に取り組む予定だとしている。