東京科学大学と東京応化工業は,UVナノインプリント(UV-NIL)を用いたシリコンフォトニクスプロセスを開発した(ニュースリリース)。
ナノインプリントリソグラフィ(NIL)は,ナノスケールのスタンプを用いた押印技術であり,従来の露光法と違って露光波長に解像度が依存しないことや,大面積転写性や高スループット性などを有していることから,半導体における次世代リソグラフィ技術の一つとして期待されている。
特にポリマー製の透明スタンプを使うソフトUV-NILは,半導体製造環境との互換性を担保しつつ,半永久的な機能層を大面積かつ高解像度でパターニングできることから,ARグラス等の導入実績があるほか,メタマテリアルやメタサーフェスなどの開発にも活用されている。
半導体の製造技術を用いてウェハ上に大規模な光回路を構築する集積フォトニクス分野でも,100nm程度の解像度が保証されれば十分なため,NILを導入できる可能性があった。
研究では,シリコンフォトニクスプロセスに合わせたNIL用の光硬化性樹脂の開発とともに,ウェハレベルでUVナノインプリントを行なうオーストリアEV Groupの「SmartNIL」技術に基づいたロールオンプロセスの最適化を行なった。
これにより開発したプロセスを用いて作製したシリコン導波路では,従来の90nm CMOSプロセスラインや電子線描画を用いて作られた光導波路と同程度の性能を得ることに成功した。
今回開発した光硬化性樹脂は,UV-NILの標準仕様に加えて,シリコンフォトニクスプロセスに必須となる,①SF6-C4F8混合ガスによるエッチング耐性,②O2アッシングによる除去性 ,③ワーキングスタンプ剤との親和性,の特徴を備えている。
また,開発したプロセスは「NIL工程」と「光回路形成工程」の2つのプロセスフローに分かれており,このプロセスで作製したシリコン導波路の伝搬特性を評価した結果,波長1550nmのTEモード光に対する単位長さ当たりの伝搬損失は1.6 dB/cm程度となった。
これは,従来のドライArFが用いられる90nm CMOS試作ラインや電子線描画を用いて作られたシリコン導波路と遜色ない値であり,NILによって十分な性能を持つ光回路が形成可能であることを示しているという。
半導体と比べフォトニクス分野では露光プロセスにそれほど高い解像度を必要としないため,NILの大面積転写性や高スループット性を大いに活かすことができる。研究グループは,コストの観点からも優位性があるとしている。