東京大学とAGCは,従来の100万倍高速かつ超精密に,ガラスなどの透明材料を加工できる手法を開発した(ニュースリリース)。
ガラスへのエッチングを使わない加工技術として,レーザー加工が注目されている。研究グループは2018年,ガラス内部に一時的に自由電子を生成し,光吸収性を増大させた領域のみを選択的に高速加工する「過渡選択的レーザー加工法(TSL加工法=Transient and Selective Laser 加工法)」を開発しているが,半導体産業の要求を満たす速さ,形状,精密性を実現できていなかった。
今回,時間波形の制御に加え,空間波形を制御した「ベッセルTSL加工法」の開発により,速さ,形状,精密性の全てにおける劇的な改善に成功した。
この手法では,レーザーの空間波形をベッセルビームに整形することで,光強度分布を高アスペクト比(ここでは穴の深さと直径の比率)なライン状に制御した。時間波形については,ピコ秒オーダーの鋭いレーザーパルスと低強度のマイクロ秒オーダーのレーザーパルスを重畳させることで,ガラス基板の表面から裏面を貫く高アスペクト比な自由電子領域を生成し,その領域のみの選択的な超高速加熱・蒸発を実現した。
これにより,加工時間20μs(従来比100万倍速)で,深さ1mm,直径3μmの超高アスペクト比の穴あけ加工を実現した。穴の直径は,マイクロ秒レーザーの照射時間という単一のパラメーターで制御することができる。さらに,従来のレーザー加工で問題となっていた加工時のクラック(亀裂)や穴形状のゆがみのない,極めて精密な加工の実現にも成功したとする。
この手法は,サファイア,炭化ケイ素,ダイヤモンドを始めとした,さまざまな材料に対して適用可能であることから,半導体産業にとどまらず宇宙分野,医用工学,物理工学など,幅広い分野への波及効果が期待できる。
加えて,この手法では,従来手法と比較し,4桁低い光強度で超高速加工が実現する。そのため,装置の低価格化や,エネルギー消費量の大幅な削減も見込める。
研究グループは,これまで,レーザー光源の高出力化による加工の高速化が試みられてきたが,その潮流に逆行することによる超高速化の実現は,科学的にも価値がある発見だとする。また,材料特性を瞬間的に変化させるという概念は,製造業におけるさまざまな工程に応用できる可能性があることから,製造業界にパラダイムシフトをもたらすとしている。