TDKと日本大学は,波長800nmの光を20ピコ秒という超高速で光を検知できる素子「Spin Photo Detector(スピンフォトディテクタ)」を開発し,世界で初めて原理実証に成功した(ニュースリリース)。
AIの更なる進化には,これまで以上に膨大なデータを高速且つ低消費電力で転送する必要がある。現在,データ処理や演算を行なうCPUやGPUのチップ間,それらとメモリの間の通信は電気信号で行なわれている。
通信速度としては高速且つ配線距離が長くなっても通信速度が低下しない光通信や光配線の必要性が増しているが,それら光学素子と電子素子を融合させてコンパクトに実現する手段として,光電融合技術が世界中で注目されている。
こうした課題に対して,同社はHDD用磁気ヘッドで培った,電子と磁性を組み合わせたMTJ素子というスピントロニクス素子の技術を応用した。このスピントロニクス素子の大きなメリットの一つは,単結晶基板を用いた結晶成長を必要とせず,基板材料を選ばずデバイスを形成できる。
これは,従来の光検知素子(Photodetector)が半導体単結晶基板を必要とし,それらの直上に形成しなければならないとは対照的となっている。この要素は複数技術の融合をコンパクトに実現する必要がある光電融合分野においては大きなメリットとなるため,MTJ素子での光検知するスピンフォトディテクタというコンセプトを提案し,実験を行なってきた。
スピンフォトディテクタが用いる動作原理は,電子加熱という超高速で磁性材料が光に応答する物理原理を応用する。この物理現象に関して日本大学との共同開発を行ない,波長800nmの光を用いて超高速光パルスを照射し,20ピコ秒という超高速でスピンフォトディテクタが応答することを実証した。
従来の半導体光検知素子(Semiconductor Photodetector)では,波長が短くなるほど高速動作が困難になるという物理原理上の制約があるが,スピンフォトディテクタでは動作原理が全く異なり,電子加熱現象を用いるため,波長が短くなっても超高速動作が可能。また,動作波長領域も広く,可視光から近赤外光まで動作することを確認した。
研究グループは,可視光の高速検知も可能となったことにより,今後ますます成長が期待されるAR/VR用スマートグラス向けのデバイスの応用や,高速撮像素子などの応用も将来的には期待されるとしている。