総合研究大学院大学 ,JSR,東京科学大学は,機械学習と分子シミュレーションを融合した高分子材料設計ツール「SPACIER」を開発した(ニュースリリース)。
現在,計算機シミュレーションを統合した材料設計ツールが開発されているが,高分子材料系の計算機シミュレーションは,計算コストの高さや計算自動化の技術的課題が大きな障壁となっており,機械学習・シミュレーション統合型の材料設計ツールの開発は十分に進んでいなかった。
そこで,研究グループは,高分子材料系の計算機シミュレーションを全自動化するPythonライブラリ「RadonPy」を開発してきた。
今回,ベイズ最適化や能動学習などの適応実験計画に基づき,「RadonPy」の計算機実験を循環的に実行しながら高分子材料を設計するソフトウェア「SPACIER」を開発した。
オープンソースソフトウェア「RadonPy」 は,高分子の繰り返し単位の化学構造,重合度,温度などの計算条件を入力すると,配座探索,電荷計算,力場パラメータの割当,ポリマー鎖の生成,シミュレーションセルの構築,平衡・非平衡計算,物性計算などの全工程を完全に自動実行する。
現在公開されているバージョンには,熱物性,光学特性,力学特性など,17種類の物性を自動計算するアルゴリズムが実装されている。「SPACIER」は,「RadonPy」の機能を基盤とし,適応実験計画法のアルゴリズムを組み合わせることで,効率的かつ戦略的な高分子材料設計を可能にするという。
今回,実証実験として,光学用高分子の探索を行なった。光学用高分子はメガネやカメラレンズなどに用いられる材料であり,高屈折率と高アッベ数がその主な要求特性となる。
アッベ数は,透明体の色分散,すなわち屈折率が波長よってどの程度変化するかを示す指標だが,屈折率とアッベ数の間にはトレードオフが存在し,両方の特性を同時に向上させることは難しいとされ,経験的な限界線が形成されて多くの既存材料がその範囲内に収まっている。
研究では「SPACIER」を用いた計算機実験を通じて,この経験的な限界線を越える高分子を網羅的に探索した。その結果,新たに合成された高分子材料は既知の限界線を越えることが実験的に確かめられた。
「SPACIER」を活用することで,屈折率・アッベ数以外にも「RadonPy」で計算可能な広範な物性・材料空間や,そこからキャリブレーション可能な実験物性の目標領域に存在する高分子材料を網羅的に同定できるという。
現在,研究グループは,産学連携コンソーシアムを形成し,共同開発を推進しており,データ駆動型高分子材料研究が益々発展していくことが期待されているとしている