東北大学と名古屋大学は,エンベロープウイルス粒子の脂質膜に結合し蛍光応答を示す分子プローブ(M2-NR)の開発に成功した(ニュースリリース)。
ウイルス解析には,一般には抗体法とPCR法があるが,いずれもウイルス粒子構造を破壊後に解析するため,ウイルス粒子の機能(たとえば感染力など)を評価は難しかった。
今回,ヒト風邪コロナウイルス229E(HCoV-229E)をモデルとして,ウイルス粒子構造に結合し蛍光応答を示す分子プローブを開発した。
これまで研究グループでは高い曲率を有する脂質二重膜の表面に現れる脂質パッキング欠損を認識しうる両親媒性αヘリックスhペプチド(AHペプチド)をベースとして,細胞外小胞の検出を指向した蛍光応答性分子プローブの開発を進めてきた。
研究では,直径120nm程度のHCoV-229Eに対して優れた結合能を有するAHペプチドを探索した。その結果,インフルエンザウイルスのM2タンパク質にあるAHペプチド(M2ペプチド)が有用であることを見いだし,M2ペプチドのN末端に疎水場応答性蛍光色素であるナイルレッド(NR)を連結したプローブM2-NRを設計・合成した。
M2-NRはウイルス粒子の脂質膜に結合し蛍光応答を示すため,ウイルス由来RNAやタンパク質には応答せず,HCoV-229Eウイルス粒子選択性を持つ。
M2-NRはHCoV-229Eウイルス粒子に応答するため,その感染力評価に有用。一般にウイルス感染力価(Virus Infectivity Titer:タイター)は感染による細胞変性効果(CPE)を観察することで算出されるが(単位:TCID50/mL),操作が煩雑であり解析には通常1週間以上かかかる。
異なる感染力を持つ5種類のHCoV-229Eサンプルを調製し,M2-NRの蛍光応答に基づく検量線から算出されたタイターは,細胞変性法により決定したタイターと非常に高い相関を示した。
M2-NRを検出プローブとして用いるこの手法は,ウイルス粒子を直接計測することに基づいているため,サンプルと混ぜて蛍光解析するだけで迅速に(5分程度)感染力評価が可能だという。
また,M2-NRはA型インフルエンザウイルス,単純ヘルペスウイルスなど様々なエンベロープウイルスの感染力評価にそのまま適用できることも実証。またCPEが不明瞭なエンベロープウイルスであるレンチウイルスの感染力評価もできる。
研究グループは今後,生体試料に含まれるウイルス感染力をその場で簡便かつ迅速に評価し,感染者の隔離期間の決定など感染症対策に有用な分析技術に展開を目指すとしている。