理化学研究所は、がん細胞で過剰に産生される代謝物アクロレインを利用し、がん細胞内でのみポリマーを自発的に合成できる革新的なポリマー化技術の開発に成功した(ニュースリリース)。

生体関連化学分野において、高分子材料は薬物送達やバイオイメージング、生体組織工学などに広く応用されている。しかし、それらの高分子材料はフラスコで合成してから細胞内に導入する必要があり、膜透過性の低さや細胞内での安定性に課題があった。
研究グループはまず、アクロレインと選択的に反応する二つのアミノエタノール構造を持つ原料モノマーを5工程の化学変換を経て合成した。この原料モノマーを水中・室温下で試薬のアクロレインと反応させると、瞬時に8員環構造が連なったポリマーが得られた。
実際に熱重量分析および固体NMR分析の結果から、原料モノマーとアクロレインが二量化カスケード反応によって、8員環構造に連なっていることを確認した。さらに、生体内に存在するグルタチオンやアスコルビン酸の存在下や、細胞培養液中でも重合が確認されたことから、重合は生体内でも進行する可能性を示した。

さらに研究グループは、テトラフェニルエチレン(TPE)蛍光基を組み込んだ原料モノマー「TPE-AE」を合成した。TPE-AE原料モノマーをがん細胞に投与すると、ポリマー化によってTPE蛍光基が密集し、がん細胞だけが蛍光を発する「光る高分子反応」が実現する。
複数のがん細胞では、アクロレインが過剰に生産されているため、がん細胞内での8員環ポリマー形成が起こったことで強い蛍光が観察されたが、アクロレインが少ない正常乳腺細胞(TIG-3)では8員環ポリマーは形成されないためほとんど発光せず、蛍光の有無だけでがん細胞を識別できた。
最後に、実際の乳がん患者から手術中に取り出されたがんおよび正常組織サンプルを用いてインプリントサイトロジー実験を行なった。その結果、TPE-AE原料モノマーの溶液にそのサンプルを1分間浸すだけで、アクロレインが過剰に生産されているがん細胞では、8員環ポリマーの形成によって青色の蛍光を観察できた。
一方で、アクロレインが少ないTIG-3組織では8員環ポリマーは形成されないためほとんど発光しなかった。細胞レベルでの実験と同様に、蛍光の有無だけで、がん組織を迅速に識別できることを実証した。
研究グループは、生体内合成化学治療への第一歩として、診断・手術支援などへの応用が期待されるとしている。