岡山大学とイタリア国際高等研究学校(SISSA)は,宇宙創成の謎を探る衛星観測手段において,測定誤差を最小化する手法を発見した(ニュースリリース)。
宇宙の熱いビックバンの残光と呼ばれる宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光精密観測によるインフレーションの検証は,現在の宇宙物理学上最も重要な研究課題の1つにあげられている。
もし検証に成功すれば,熱いビックバンの前を直接見ることが可能になり,人類に新しい世界観を与え,パラダイム・シフトを起こすと考えられている。一方この検証には,従来よりも1桁以上優れた精度を有する測定が必要。超高感度な検出器群に加えて,観測装置の性能の不定性に由来する系統誤差を大きく抑制する必要があり,装置とサイエンスをつなぐ研究が必要となっている。
今回研究グループは,系統誤差と呼ばれる観測装置の不定生に起源を持つ誤差が最大限抑制される観測手法の解を見つけた。この解を見つけるためには,広大な多次元パラメーター空間を探索しなければならない。
今回,独自に開発した高速シミュレーターFalconsとスーパーコンピューターを駆使し,その最適解を見つけることに成功した。具体的には,偏光観測の誤差を最小化するために,あらゆる天域においてほぼ一様な偏光方向観測を達成する全天観測手法を,人工衛星の姿勢を制御する4つのパラメーター空間で発見した。
また,系統誤差抑制を確認するために,偏光の回転対称性(スピン量)が2であることに着目し,特定の系統誤差の影響を素早く計算できる手法を開発した。観測手法の最適解が確かに系統誤差を抑制することを確認できた。
研究グループは,この研究は,インフレーションを検証する将来のCMB偏光観測衛星実験(LiteBIRD等)の観測装置や姿勢制御に重要な設計指針を与えるとしている。