東大ら,北斎ブルー類似体がSERS基板になると発見

東京大学とLucasLandの研究グループは,浮世絵にも使われた顔料で北斎ブルー・広重ブルーとも呼ばれたプルシアンブルーの類似体ナノ粒子が,均一性,耐久性,蛍光消光性,保存性,生体適合性に優れた表面増強ラマン分光法(SERS)の基板として活用できることを明らかにした(ニュースリリース)。

通常のラマン分光法よりも、数桁倍以上に増強された信号を発する分析手法のERSは,これまで金属ナノ構造体の隙間(ホットスポット)における局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を用いてきた。

しかしLSPRは,光熱変換によって生体分子の変性を引き起こすほか,ホットスポットからSERSが生じるので均一性や再現性も乏しく,非金属材料である炭素や半導体・誘電体などの材料が提案されていた。

これらの基板を用いたSERSは,光熱変換が抑制されて生体適合性や耐久性に優れ,基板全体に測定対象分子が吸着するので均一性や再現性にも優れると考えられてきたが,測定対象分子と基板の組み合わせで変化するSERS性能の制御が困難だった。

研究では,プルシアンブルー類似体のナノ粒子を合成しローダミン6Gを吸着させて測定したところ,通常のラマン分光法に比べて108倍に達する高い増強率を示すラマン信号を得た。通常のプルシアンブルーではそのような増強は得られず,さまざまな金属を添加することで生成した結晶欠陥がSERSの発現に寄与していると考えられるという。

実際に量子化学計算を行ない,通常のプルシアンブルーではなく,類似体へ分子が吸着した場合にSERSの原因となる共鳴ラマン効果を引き起こす電子準位の変化を確認した。

このナノ粒子状のSERS基板は,信号強度の空間的均一性,長時間測定における耐久性,高い蛍光消光性を示した。さらに金属SERS基板では酸化による保存性,光熱変換による生体適合性が大幅に改善された。

実際に,蛍光性色素分子だけでなく生体分子のSERS測定にも成功した。さらに,このプルシアンブルー類似体がランダムラマンレーザーを発振することも発見した。ラマン散乱光を増強するプルシアンブルー類似体ナノ粒子で光が多重散乱されてランダムラマンレーザー光が発振したと思われるという。

さらに,異なる金属を添加することで増強率を変化させられることも発見したので,結晶欠陥の生成を通したSERS性能の制御やさまざまな測定対象分子での最適化が図れるとする。

研究グループは,「どこでも・誰でも・簡便・その場・低コスト化学分析」という新たな領域の開拓と,新規産業の創出といった社会への波及効果が期待される成果だとしている。

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