広島大ら,放射光顕微観察技術を世界で初めて開発

著者: 梅村 舞香

広島大学,量子科学技術研究開発機構,高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所は,放射光を用いた顕微実験技術とデータサイエンスの手法を組み合わせ,銅酸化物が示す高温超伝導の強さを表す超伝導ギャップが,10μmほどの微小なスケールで,空間的に不均一であることを世界で初めて可視化することに成功した(ニュースリリース)。

高温超伝導体を用いたエネルギーデバイスの実現には,超伝導ギャップが大きく,かつ空間的に乱れのない材料を開発する必要がある。しかし,これまで超伝導ギャップの空間分布を正確に観察する手段がなく,その実現が望まれていた。

そこで研究グループは,放射光をマイクロ集光させてARPES測定を行なうことで,空間的な不均一性と波動的性質の異方性とを同時に観察する実験技術を確立できると考えた。今回,高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーのマイクロARPES装置を活用し,銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップが最大となる波数方向の電子を選択的に観測した。

空間分解能を高めた実験を行なうため,従来の実験に比べてデータ量は数100倍以上増加するため,データサイエンスの手法を用いて超伝導ギャップの大きさを抽出し,可視化する手法も合わせて開発した。

その結果,超伝導ギャップの最大値が,μmスケールの微小領域において,30-40ミリ電子ボルト(meV)の間で不均一であることを世界で初めて可視化することに成功した。一方,STM/STSで報告されていた超伝導ギャップの値が20-70meV の範囲で不均一に分布していることと比較すると,ARPESで測定した超伝導ギャップの不均一性は相対的に小さいことがわかった。

銅酸化物高温超伝導体の一つは,超伝導状態でのみ現れるエネルギーギャップの小さい超伝導ギャップ。もう一つは,超伝導転移温度よりも高温の状態でも現れるエネルギーギャップが大きい擬ギャップ。

エネルギーギャップの大きさから考えると,今回の研究では超伝導ギャップの空間的な不均一性を反映しているのに対して,STM/STSでは超伝導ギャップだけでなく擬ギャップの空間的な不均一性が混ざって観測されていたと考えられる。つまり,今回の結果は,超伝導ギャップの空間不均一性を世界で初めて捉えた成果と言える。

さらに,今回の研究で開発した技術により,特定の波数の電子を選択して,空間的な不均一性を可視化することが可能となった。

研究グループは,今後,この技術により,銅酸化物が示す高温超伝導の仕組みを紐解く足掛かりとなることが期待されるとしている。

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