千葉大ら,光スキルミオンの偏光の渦構造を直接転写

千葉大学,インド工科大学ビライ校,米デューク大学は,アゾポリマーに光の準粒子状態と呼ばれる光スキルミオンを照射することで,光スキルミオンの偏光の渦構造(スキルミオン構造)を物質に直接転写できることを実証した(ニュースリリース)。

光スキルミオンとは,電子のスピンの代わりに右回りおよび左回り円偏光の線形結合で与えられる光のすべての偏光状態を2次元に投影した偏光の渦構造を指す。

渦の構造に対応してNéel型を始め,さまざまな種類の光スキルミオンがあるが,光スキルミオンの渦構造は外部の乱れや干渉に対して比較的強い安定性があるため,自由空間を長距離伝播してもその構造が保持される。そのため,次世代の自由空間光通信のキャリアとして応用が期待されている。

スキルミオンと強い類似性を持つ光スキルミオンは,物質中のスキルミオンを生成・消滅・輸送できる可能性が示唆されているが,現状では,光スキルミオンによる物質操作の研究報告はなかった。

光スキルミオンは右回り円偏光であるガウシアンビームと左回り円偏光である光渦を空間的に重ね合わせることで発生できる。この研究では,532nmの連続波レーザーと液晶空間光変調器(SLM)と1/4波長板を用いることで,光スキルミオンを発生させた。

Néel型の光スキルミオンの場合,偏光子を回転させると偏光子の回転方向に対応して半月状の光が回転することから,偏光の渦構造を持つ光スキルミオンが発生する。

ガラス基板上に成膜したアゾポリマー薄膜に,発生した光スキルミオンを集光照射(50μW,15秒間,ビーム直径10μm)した。その結果,アゾポリマー薄膜の表面には,偏光の渦構造を反映した半月状(あるいは放射状)の凹凸構造(高さ約600nm)の上に偏光の垂直方向に沿った波長程度の間隔(約450nm)のリップル構造(深さ約40nm)を持つ表面レリーフが形成された。

波長スケールの凹凸があっても偏光の渦構造が保持されて記録されていることから,光スキルミオンの外部の干渉に対する安定性を示す。またリップル構造は,アゾポリマーの分子間相互作用により,自己組織化する特性を示しているという。

この研究で形成された表面レリーフは,次世代高密度光データストレージにも応用できる可能性がある。研究グループは今後,光の3次元準粒子である光ホプフィオンなどを用いれば,超高密度3次元光データストレージの実証も可能だとしている。

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