理研ら,単一分子による共鳴ラマン散乱を可視化

理化学研究所(理研),北海道大学の研究グループは,単一分子による共鳴ラマン散乱の可視化に成功し,その解析から,化学分析手法として重要な選択則を見いだした(ニュースリリース)。

ラマン分光法は,分子の種類を識別する化学分析手法として広く用いられているが,単一分子によるラマン散乱過程の詳細が分かっていなかった。そこで研究グループは,独自に開発した走査トンネル顕微鏡(STM)装置(光STM)を用いて,単一分子のラマン分光測定を行なった。

この研究では,ラマン散乱のシグナル強度を強くする「共鳴ラマン散乱」の効果に注目するために,波長可変レーザーを用いて実験した。試料には,レーザーの波長可変領域内に強い吸収を示す銅ナフタロシアニン分子を用いた。

まず,STMの探針を測定する分子の中心から2nm程度の距離に置いた状態で,外部からレーザー光を照射し,ラマン散乱スペクトルを測定した。入射光のエネルギーと分子の吸収エネルギーが一致する,つまり照射するレーザーの波長と分子に固有の吸収波長が一致する場合に,非常に強いラマン散乱シグナルが検出されたことから,共鳴ラマン散乱の効果が単一分子で実証された。

次に,STM探針の位置を変えながら共鳴ラマン散乱スペクトルを測定し,シグナルの探針位置依存性(ラマン分光マッピング)を調べた。検出された15の共鳴ラマン散乱スペクトルのピークに対してその強度を画像化したところ,特徴的な三つのパターンに分類され,それぞれのパターンが試料の分子振動の空間対称性と1対1で対応していることを見いだした。

この結果は,共鳴ラマン散乱が生じる条件が分子振動の対称性によって異なっており,対称性によって決まるある法則に基づいて共鳴ラマン散乱が生じていることを示唆している。

最後に,ラマン分光マップの理論的考察によって,近接場光を使った共鳴ラマン散乱過程の発生を支配している選択則を明らかにした。具体的には,近接場を介したラマン散乱過程が生じるためには,近接場光の電場によって分子内に双極子が誘起されるだけでは十分ではなく,その誘起双極子が光を放出する過程においても近接場光の電場に結合する必要があることを見いだした。

そのため,ラマン分光マップに現れる明暗の分布は,STM探針の位置と分子振動の空間対称性によっては,誘起双極子の向きが局在電場に対して直交してしまうために,ラマン散乱が抑制されると解釈するとよく説明することができる。

このような基礎的な知見の獲得は,近年盛んに研究が進められている近接場光を使ったラマン分光法が,単一分子の化学感度と分子・原子スケールの空間分解能を両立する究極の化学分析法として確立・普及されるための大きな一歩としている。

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