昭和大ら,ラマン分光でがんを迅速診断

昭和大学,JSRの研究グループは,45秒で結果が得られる血液によるがんの高感度迅速診断の基礎技術を開発した(ニュースリリース)。

研究グループは2018年9月から,がんの高精度かつ迅速スクリーニング技術(超早期診断技術)の開発を進めてきた。この技術はラマン分光法を応用したものであり,米BaySpec社の技術協力により開発した超高感度の顕微ラマン分光装置を使用する。

医療機関での一般的な血液検査で用いる血清の約10-20µlを使用して,特殊な形状の細径金属チューブ(1本約8円)の先端に液滴を作成し,1064nm波長の近赤外線レーザー光を照射する。15秒間の照射を3回行ない,3回の測定の平均値をラマン散乱光波形として記録する。

予備実験として,胃がん,大腸がん,良性疾患の被験者それぞれ10名の協力のもと血清のラマン散乱光波形を比較したところ,特定の複数の分子結合に由来する散乱光の強度に差があることを見いだした。

予備実験の結果をもとに,上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)または大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行ない,検査前の血液検査で採血した血液の一部を使用して,血清のラマン散乱光波形を記録した。

まず,20歳から80歳までの計236名の血清を解析したところ,胃がんまたは大腸がんの存在を感度100%,特異度75%で予測することができた。ただし,年齢によりラマン散乱光波形に一定の特徴があることが判明し,70歳を超える被験者は別の基準で分析するとより正確に解析できた。

次に,20歳から70歳までで,がんを含む悪性疾患の既往がない計213名の血清を解析したところ,早期がんを含む胃がんまたは大腸がんの存在を感度85.7%,特異度86.7%と高精度に予測することができた。

がんが見つかった被験者は胃がん1名,大腸がん6名の計7名であり,この技術では7名中6名が「陽性」と判定され,Stage 0の大腸がん1名のみ「陰性」と判定された。また,「陽性」で内視鏡検査でがんを発見できなかった被験者のほとんどに,将来がんを発症する可能性がある病気が見つかった。

さらに,尿のラマン散乱光波形を記録したところ,がん診断に応用できる可能性があることが分かり,現在,血液(血清)と並行して解析を進めているという。

現時点では3種類の散乱光の強度比による簡易的な解析の結果であり,解析データ数を増やし解析アルゴリズムを最適化していくことで,さらに向上することが予想されるという。また,比較する分子結合を調整することで,幅広いがん種や疾患にも応用可能としている。

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