自動運転や医療を支えるフォトニクス設計が変革期にある今、アンシスのトム・オーマイヤ博士に話を聞いた。CERN(欧州原子核研究機構)での研究を経て次世代の設計環境を構想する博士に、シミュレーションの進化、日本の「ものづくり」の強み、AIが拓く未来を聞いた。

基礎研究から、光学設計ソフトウェアの最前線へ
研究からシミュレーションの世界へ
─キャリアの原点ではどのような研究に従事されていたのでしょうか
私はCERNで、博士課程とポスドクを合わせて約3年間研究に携わりました。主なテーマは、高エネルギー電子ビームの診断・検出システムの開発です。加速器内の電子ビームが衝突する際、その衝突を正確に制御するためにはビームのサイズ(幅)を精密に把握する必要があります。具体的には二つのシステムを開発しました。一つは「レーザーワイヤー」と呼ばれる、レーザーで電子ビームをスキャンして逆コンプトン散乱光を検出し、ビームプロファイルを測定するモニターです。
もう一つは「光回折放射」を用いたシステムです。これは検出器からの放射パターン(空間・角度分布)を利用してビームサイズを特定する非侵襲的なモニターで、円形加速器においてビームを損なう(消滅させる)ことなく測定を繰り返せる点が重要でした。
この研究の過程で、私は物理光学伝搬(POP)をシミュレートするために
Zemaxのソフトを使用していました。これが私とZemaxの出合いであり、エンジニアを経て、現在は製品の方向性を決定するプロダクトマネージャーとしてアンシスに参加するきっかけとなったのです。
─企業のプロダクトマネージャーとなり、何が変わったのですか
研究者と産業界のプロダクトマネージャーでは、求められるマインドセットが根本的に異なります。研究者は、自分のプロジェクトや測定結果に対し、どれほど時間がかかっても極限まで「物理的な正しさ」や精度を高めることに集中します。いわば「一点もの」の完璧さを追求する世界です。一方で産業界では、製品を迅速に市場へ投入し、かつ何千、何万という多くのユーザーが利用できる「スケーラビリティ(拡張性)」が求められます。一回限りの成功ではなく、誰でも再現でき、かつ長年にわたって活用可能なプロセスを構築しなければなりません。
また、プロダクトマネージャーとしては、物理的真理の追求だけでなく、顧客の要望、ビジネス状況、競合動向、技術トレンドなどを統合して意思決定を行なう必要があります。この「一過性の成功」から「広範かつ永続的な価値の提供」への転換が、最も大きな変化でした。



