設計探索の深化
マルチフィジックスが拓く新境地
─光学設計において注目すべき技術トレンドは
トピックとして「自由曲面光学」、「メタサーフェス」、そして「統合フォトニクス」が挙げられます。
自由曲面は設計の変数が大幅に増えるため、より高度なアルゴリズムと広範な設計空間の探索が必要になります。メタサーフェスについては、まだ研究と産業の境界にありますが、システムレベルでどのように設計に組み込むかが今後の課題です。そして統合フォトニクスは、システムの小型化という不可避な流れに合致しています。しかし、それ以上に重要なトレンドは、「光学がもはや単独では存在し得ない」という点です。現在のシステム設計では、熱、構造、製造上の制約など、物理現象をより包括的に捉える必要があります。
─「マルチフィジックス」や「マルチドメイン」の連携が重要視されている理由ですね
その通りです。これまでは、光学設計者がレンズを設計し、それが終わると機械設計者に「投げて」熱解析や構造解析を任せるという流れが一般的でした。しかし、システムが複雑化・小型化する現在、それでは不十分です。
データの受け渡しにおけるエラーを排除し、設計の非常に早い段階から、光学、機械、電気の各分野が緊密に連携する「フロントローディング」が必要です。設計の後半で問題が発覚すれば、再設計のコストは膨大になり、変更も効かなくなります。熱の影響や構造的な歪みを考慮しながら、コンセプト段階からフィードバックループを回し続けることが、開発のスピードと品質を左右するのです。

進化とAIの可能性
─シミュレーションの役割はどのように進化しているのでしょうか
かつてのシミュレーションは、試作(プロトタイプ)の回数を減らしてコストを削減することが主目的でした。もちろん今でもその価値は大きいですが、現在の役割は「最適なソリューションを見つけ出すための設計探索」へとシフトしています。
人間の直感だけでは思いつかないようなすぐれた設計案を、アルゴリズムによって設計空間全体から探し出すことができます。また、製造時のばらつきを考慮した「公差解析」をシミュレーション上で行なうことで、どの設計が最もロバスト(堅牢)で量産に適しているかを、実際に作る前に判断できるのです。
─ AIや機械学習の導入について、どのような展望をお持ちですか
AI は設計探索を劇的に加速させる「イネーブラー(実現要素)」になると見ています。例えば、従来の最適化手法の代わりに、AI を用いて予測モデルを構築することで、膨大な公差解析や最適化をはるかに短時間で行なうことが可能になります。
ただし、課題もあります。それは質の高いデータの不足です。光学設計のデータは各企業の社外秘であることが多く、AI を訓練するための公開された共通データセットが十分に存在しません。教科書レベルのデータだけでは、実用的なAI を育てるには不十分なのです。
また、強調したいのは、AIが人間の仕事を奪うわけではないということです。得られた結果を批判的に吟味し、それがアプリケーションに対して適切かどうかを判断し、最終的な決断を下すのは、常に人間です。



