京都大学、公立千歳科学技術大学、量子科学技術研究開発機構は、シリコンイオンを注入したナノダイヤモンドに熱処理を施したサンプルを作製し、9Kという温度で高品質な光子発生特性を観測することに成功した(ニュースリリース)。

光量子コンピューターや、量子暗号通信の長距離化に重要な量子中継では、光の波長がそろった単色性の高い光子を一つずつ発生させる単一光子源が求められている。その候補として注目されているのが、ダイヤモンド中のシリコン空孔(SiV)中心。SiV中心は欠陥構造の対称性が高く、周囲のノイズの影響を受けにくいという特長を持つ。特に、直径数十nmのナノダイヤモンド中のSiV中心は、ガラスや半導体導波路と組み合わせることで、高効率な単一光子源への応用が期待されている。
単色性の高い光子を発生できるかどうかは、一般にフォトルミネッセンス励起分光(PLE)で観測されるピークの線幅で評価される。この線幅が、発光寿命によって決まる理論的な最小値である寿命限界線幅に近いほど、高品質な光子発生が可能とされる。しかし、ナノダイヤモンド中のSiV中心では、これまで寿命限界線幅の観測は2.3Kという極低温に限られていた。この温度は液体ヘリウムの沸点である4.2Kよりも低く、一般的な冷凍機によるシステム構築の障害となっていた。
今回の研究では、京都大学が準備した高圧高温法で合成したナノダイヤモンドに対し、量子科学技術研究開発機構高崎量子技術基盤研究所でSiイオンを注入。その後、京都大学で真空中において800℃と1100℃の2段階熱処理を行ない、ナノダイヤモンド中にSiV中心を形成した。
作製したサンプルは、5K以下まで冷却可能な無冷媒クライオスタットを用いて光学特性を評価した。PLE測定では、レーザー光をSiV中心の発光ピーク付近に設定し、周波数を掃引しながら発生する光子数を単一光子検出器で計数した。その結果、300±20MHzの線幅を持つ発光ピークを観測した。
さらに、パルスレーザーでSiV中心を励起し、光子が生成されるまでの時間である発光寿命を測定したところ、0.49nsだった。この発光寿命から計算されるPLEスペクトル線幅の理論的最小値は約320MHzであり、観測された線幅とほぼ一致した。このことから、同ナノダイヤモンド中のSiV中心から発生する光子が、極めて高い単色性を持ち得ることが示された。
加えて、温度を段階的に上昇させても、9.0Kまで寿命限界線幅に近い特性が維持されることを確認した。9Kは、従来ナノダイヤモンド中SiV中心で寿命限界線幅が観測されていた2.3Kの約4倍であり、液体ヘリウム温度を大きく上回る。電気駆動の一般的な冷凍機で容易に到達できる温度であることから、実用的な単一光子源の開発に向けた大きな前進となる。
研究グループは、この高温での良好な特性が、局所的な歪みに由来する準位分裂によるものだと明らかにした。今回の成果は、液体ヘリウム温度以下への冷却を必要とせず、ナノダイヤモンド中SiV中心を用いて理論的に最大の単色性を持つ光子を生成できる可能性を示すもの。今後、歪みの効果を積極的に利用することで、他のダイヤモンド中欠陥中心の高温動作にもつながると期待される。
研究グループは、この成果により、光量子コンピューターや長距離量子暗号通信などの社会実装の加速が期待されるとしている。



