富士フイルムと堀場製作所は、バイオ医薬品製造の培養・精製工程において、タンクや装置内の成分濃度を連続的にリアルタイムで可視化する「インラインラマン高感度計測システム」を共同開発した(ニュースリリース)。

バイオ医薬品の製造では、培養液や精製液中の成分濃度、酸素濃度などのわずかな変動が、製品の品質や収率に大きく影響する。このため、培養・精製工程では各種成分の識別・分析が重要となる。しかし、従来のオフライン分析では、製造途中の培養液や精製液をサンプリングして分析する必要があり、工程中の成分変化をリアルタイムに把握することが困難だった。こうした背景から、製造工程中の状態を非破壊かつ連続的に分析し、変化を高精度に捉える高感度計測技術へのニーズが高まっている。
今回開発したシステムは、堀場製作所の高感度ラマン分光装置と、富士フイルム独自の高集光効率シングルユースプローブ、さらに独自の計測アルゴリズムを組み合わせたもの。富士フイルムが写真・光学デバイス事業で培った光学設計技術と、バイオCDMO事業で蓄積したバイオ医薬品製造の知見、堀場製作所が有する高感度・高精度・高安定性のラマン分光技術を融合し、業界最高感度を実現したという。
同システムでは、高集光効率プローブにより微弱なラマン信号を効率よく取得するとともに、ラマン分光装置のノイズ低減設計により、高いSN比のラマンスペクトルを得ることができる。堀場製作所のラマン分光装置は、石油業界の精製工程など、過酷な環境下での長期モニタリングに実績を持ち、堅牢性に加えて、温度上昇による信号のゆらぎを抑える設計や、温度変化などによる測定値のずれを自動校正する機能を備える。
また、富士フイルム独自のシングルユースプローブは、バイオ医薬品製造に適した材質・形状とし、汚染リスクの低減や洗浄工程の省略にも寄与する。短時間の計測でも十分な精度を確保できるため、計測スループットの向上も期待できる。
計測アルゴリズムでは、取得したラマンスペクトルから、測定対象物に由来する特徴的な波数を抽出し、計測モデルを構築する。これにより、培養液成分の経時変化や、精製液中の目的物・不純物の濃度を高精度に連続計測できる。
適用事例として、抗体医薬品製造の精製工程における収率向上がある。従来の紫外可視吸光光度法では、タンパク質の総量は分析できるものの、抗体と組成が類似した不純物を識別することが難しかった。同システムでは、抗体や不純物に由来する波数を抽出して計測モデルを構築することで、抗体と不純物の濃度を識別し、連続的に計測できる。これにより、不純物濃度を基準内に管理しながら、抗体濃度が最大となるタイミングで回収することが可能となる。富士フイルムのモデル実験系では、従来の紫外可視吸光光度法による工程管理と比較して、約10%の収率向上を確認した。
さらに培養工程では、培養液中の複数のアミノ酸を識別して連続計測し、成分変化を可視化できる。これにより、バッチ間や同一バッチ内の変動要因の特定、生産プロセスの精密制御、品質安定化への貢献が期待される。また、インラインでのリアルタイム分析により、従来必要だったサンプリングやオフライン分析の時間を削減し、プロセス開発の効率化と迅速化にもつながる。
両社は今後、早期実用化に向けて同システムの実装検証を進める。製造プロセスの可視化と高度なデータ分析技術の確立を通じ、抗体医薬品をはじめとする高品質なバイオ医薬品の安定製造と製造コスト低減に貢献していくとしている。



