【解説】ダイヤモンド半導体の産業化へ、日本勢の挑戦が加速

人工ダイヤモンドメーカーのOrbray(東京都足立区)はこのほど、世界最大級の人工ダイヤモンドメーカーであるElement Six(英国 ロンドン)との提携を発表した(ニュースリリース)。両社はウエハースケールの単結晶ダイヤモンド基板の開発・供給を進めるとしており、量子技術や次世代パワー半導体分野への応用が期待されている。


ダイヤモンドは長年、「究極の半導体材料」と呼ばれてきた。シリコンや炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)を上回る熱伝導率や高い絶縁破壊電界を持ち、理論上は極めて高性能な電子デバイスの実現が可能とされる。また近年では、ダイヤモンド中のNVセンターを利用した量子センシングや量子通信、量子コンピューティングへの応用研究が活発化しており、量子技術を支える基盤材料としても注目度が高まっている。
しかし、ダイヤモンド半導体は長年にわたり「有望な未来技術」と言われながら、本格的な産業化には至っていない。その理由は性能ではなく、むしろ供給体制にあった。高品質な単結晶ダイヤモンドを安定して大面積化し、産業用途に必要な数量を継続供給することは容易ではない。研究室レベルで優れた結晶を作ることと、半導体産業が求めるウエハーとして量産することの間には大きな隔たりが存在していた。
今回の提携が注目される背景には、両社の補完関係がある。Orbrayは高品質な単結晶ダイヤモンドの成長技術や(111)面基板の開発で実績を持つ。一方、Element Sixは人工ダイヤモンド分野における世界的なリーディングカンパニーとして、高純度結晶の製造技術やグローバルな供給体制を有している。両社の連携は、優れた材料技術と量産能力を結び付ける取り組みとして位置付けられる。
特に量子技術分野への影響は大きい。量子センサーや量子フォトニクスデバイスでは、結晶欠陥を制御した高品質ダイヤモンド基板が不可欠となる。研究用途向けの少量供給では市場形成に限界があるが、量産可能な供給体制が確立されれば、デバイスメーカーやシステムインテグレーターによる開発投資も加速する可能性がある。
一方、日本国内では住友電工をはじめとする企業がダイヤモンド半導体の研究開発を進めている。住友電工は単結晶成長技術やデバイス開発を含めた垂直統合型のアプローチを進めており、次世代パワー半導体の実現を視野に入れている。これに対し、OrbrayとElement Sixの連携は、材料技術と量産技術を組み合わせて市場形成を目指す国際連携型の取り組みといえる。
両者は競合関係にあるというよりも、異なる戦略で同じ課題に挑んでいると見るべきだろう。ダイヤモンド半導体の実用化には、高品質結晶の成長技術、基板加工技術、デバイス設計、量産技術、さらには市場開拓まで、多様な要素が求められる。単一企業だけでなく、企業間連携や産学官連携を含めたエコシステム形成が重要になる。
現在のパワー半導体市場ではSiCやGaNが急速に普及しているが、その先を見据えた技術開発競争も始まっている。量子技術分野でも、材料技術がデバイス性能を左右する重要な要素となりつつある。今回の提携は、一企業の事業戦略という枠を超え、ダイヤモンドを研究材料から産業材料へ押し上げるための新たな動きとして捉えることができる。
日本企業はこれまで結晶成長や精密加工などの分野で世界的な競争力を培ってきた。ダイヤモンド半導体の産業化に向けた取り組みが今後どのように発展するのか。その行方は、量子技術と次世代パワーエレクトロニクスの未来を占う一つの指標となりそうだ。

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