NTTが描く次世代光通信と新たな世界─IOWN構想が導く未来とは

著者: sugi

IOWNは大きな未来の構想だが,枝葉となる具体的な技術開発は早くも進められている。今回,特に光技術に関する研究を紹介して頂いた。

■ナノフォトニックアクセラレーション

限界の見える電気回路に対し,光でチップ上の情報を伝送するコンセプト。その実現にはNTTが「オンシリコンプラットフォーム」と呼ぶ,シリコン上へのレーザーの作り込みがカギとなる。NTTではフォトニック結晶で作った光導波路に数mmの活性層を埋め込んだリープレーザーを開発しており,1bitあたり4.4fJでの動作を確認している。

さらにO-E変換を行なうナノ受光器,E-O変換を行なうナノ変調器,そして昨年にはO-E-O変換を行なう光トランジスタの動作原理を実証し,IOWN推進のブレイクスルーとなった。必要な光制御エネルギーは1bitあたり1.6fJで,従来のO-E-O変換素子に比べて2桁以上低減している。

NTTはここを起点として光コンピューティングに取り組む。例えばニューラルネットワークを模した光のネットワークや光トランジスタを用い,光が得意とする処理は光で高速に行ない,演算処理やメモリが必要な部分は従来のエレクトロニクスに接続する,ハイブリット型のコンピューティングの実現を目指す。

Photonics Acceleratorのイメージ
Photonics Acceleratorのイメージ
■人工光合成

NTTが取り組む人工光合成は半導体を使い,植物と同じように太陽光とCO2と水から,酸素とメタン,エタノールといった有用物質の生成を目指す。 太陽光が受光部に当たると半導体電極で電子と正孔が発生し,この電子が金属電極上で還元反応を起こして水素ガスを生成する。現在,屋内で300時間の連続運転と植物と同程度(水素への変換効率0.2%)の効率を達成している。

実用化すれば,例えば住宅の屋根でエネルギーの生成・貯蔵できるほか,工場から排出されるCO2を再燃料化する炭素循環にも貢献できる。エネルギーの効率利用もIOWNの目標の一つであり,こうした通信と関係の無いように見える取り組みも進めていく。

■光エネルギー高効率利用技術

メタル線を使うアナログ電話は通信局舎からの給電により停電時でも通話ができるが,光ファイバーを用いる光電話はできない。そこでNTTでは光を通信手段だけではなく,エネルギー伝送手段としても活用する研究を行なっている。実験では通信用とは別にエネルギー送信用のファイバーを用意し,局舎から送られるレーザーを受光装置で電気に変換してバッテリーに充電し,ホームゲートウェイと電話の駆動に成功している。

具体的には12V換算で240mW程度の電力を取り出したが,このエネルギーだけではバッテリーを使わないとホームゲートウェイを動かせないため,他の微小エネルギーと組み合わせる技術や,こうした微小なエネルギーを蓄積して一定量が溜まったら少しの間通信するといった,通信端末側の省電力化技術も今後検討するとしている。

人工光合成パネルを設置した家のイメージ
人工光合成パネルを設置した家のイメージ
■光ファイバー環境モニタリング

 IOWNで活用する情報を,光ファイバーや光ケーブルの周囲から光ファイバーセンシングによって取得する試み。一般的な光ファイバーセンシングとは異なり,設置されている通信用の光ファイバーを使う。既設のファイバーは状態が千差万別なため,状況に依存せずに測定できるよう,NTTでは測定器のS/N比の向上や測定できる信号強度・速度の拡張などに取り組んでおり,成果として振動の様子と位置の検出に成功している。

今後,ファイバーの揺れや振動から,地下の光ファイバーであれば,道路の通行や工事の状況,架空した光ファイバーであれば,風やゲリラ豪雨などの天候状況や異常による光ファイバーのたるみなどの検出が期待できる。街中に張り巡らされた通信用光ファイバーにより,渋滞予測や災害の被災状況の把握,局所的な気象情報など,スマートシティに向けた環境情報の収集をめざしている。

■メタマテリアル

メタマテリアルは負の屈折率を実現する物質として注目されているが,製作が難しい3次元構造ではなく,表面に2次元構造を施したメタマテリアルであるメタサーフェースが広く研究されている。NTTではメタサーフェース構造を用いたフィルターにより,今まで取れなかった情報をセンシングできるセンサーデバイスの研究を始めている。

例えば偏光を可視化するフィルターは,偏光を分離することで肉眼や普通のカメラでは撮れない応力や歪をセンシングできる。また,波長によって異なる点で集光させるフィルターは,カラーフィルターを用いなくても色がそれぞれのセンサーで集光するので,イメージセンサーの感度の向上が期待できる。また可視光以外の紫外線や赤外線といった情報も,小さな端末で取れるようになる。

これらのフィルターはシリコン製で,可視光程度の波長であれば光デバイスの製造技術で製作することでき,むしろ分離したい波長や方向によって微細なパターンを変える設計の技術が重要となる。これにより,見えなかった情報を届けるAIの眼の実用化が期待される。

メタサーフェースによるフィルタの例
メタサーフェースによるフィルタの例
■超小型可視光光源技術

PLC(Planar Lightwave Circuit)は,通信用WDM信号の分派や合波をするデバイスとしてNTTが世界に先駆けて開発した。今回,その波長領域を可視光に変え,RGBカプラとする試みをしている。

スマートグラスなど映像を眼鏡に投映する眼鏡型端末のうち,3原色のレーザーを合波してMEMSでスキャンして眼鏡に映す方式は,レンズやミラーなど部品の点数が多く,コストとデバイスのサイズを増やす原因となっている。

これを開発するRGBカプラに置き換えれば,合波に必要な部分のサイズが1/100程度になる。現在市販している眼鏡型端末はスマホ大の光源とケーブルで繋がっているが,眼鏡のツルの部分に光源とRGBカプラを納められれば,普段の眼鏡と変わらない感覚で映像を見ることができる。すでに専用の光源もできており,実用化すればARインターフェースなどとしてIOWNに重要なデバイスとなる。

開発した超小型RGBカプラ(提供:NTT)
開発した超小型RGBカプラ(提供:NTT)
■Hidden Stereo

Hidden Stereoは,3Dメガネをかけると3D映像が見え,メガネを外すと2D映像が見える映像技術。2Dの画像に対して人間に奥行の情報を与える働きをする視差誘導パターンを生成し,元の2D画像に足したり引いたりすることで,左目用映像と右目用映像をそれぞれ作成する。

この画像を左右交互に高速表示し,シャッター式3Dメガネをかけると3D映像が見えるが,メガネを外すと視差誘導パターン同士が打ち消しあい,通常の2D映像に見える。現在は1分半の映像のパターンを作るのに人が1ヵ月くらいかけて作業をしているため,深層学習を用いたAIによる視差誘導パターンの作成,および被写体抽出と奥行推定の研究開発を進めている。

(月刊OPTRONICS 2020年5月号)

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