産総研・天野建氏に聞く AI社会で省電力化の鍵を握る光電融合技術

次世代の情報通信、データ処理に革新をもたらすキーテクノロジーとして、光電融合が世界的に注目を集めている。今回、産業技術総合研究所 光電融合研究センター 研究センター長 天野 建氏に光電融合について、産総研の取り組みを聞いた。

産業技術総合研究所 光電融合研究センター 研究センター長 天野 建氏
産業技術総合研究所 光電融合研究センター 研究センター長 天野 建氏

産学連携で切り拓いた光電融合の先駆け

天野先生のご経歴を教えてください

私は光デバイスからパッケージングに関する研究を行なってきました。もともとは半導体レーザーの研究者で、量子ドットレーザーや面発光レーザーなどの微小レーザーの開発に取り組んでおり,その流れから光電融合の分野に関わるようになりました。

産総研に入ってからは技術研究組合に所属し、世界初となる「光電融合プロジェクト」に携わりました。NEDOプロジェクトとして10年間続いたこの取り組みでは、私はパッケージ基板の実装部分を担当しました。特徴的だったのは、私の部下の多くが産総研の研究員ではなく、企業から集まった研究者だった点です。技術研究組合は、企業や大学、研究所が集まって組織をつくり共同研究を進める仕組みで、現在のLSTC(技術研究組合最先端半導体センター)にもつながるスタイルの先駆けでした。 当時はPETRA(技術研究組合光電子融合基盤技術研究所)という組織のもと、富士通、NEC、OKI、古河電工といった企業が参加し、光電融合が本格化する将来を見据えて研究を進めていました。私は光実装のチーム長を務め、産総研でチーム長になる前に、PETRAで企業研究者とともにチームを率いる経験を積みました。

企業と一体となって、半導体パッケージに光技術を組み込む研究を推進し、これは現在NVIDIAやBroadcomが取り組んでいるような先進技術を、日本が世界で最初に実現した事例でもあります。その経験を経て産総研でチーム長を務め、そして今年、新たに光電融合研究センターのセンター長に就任しました。

光電融合研究センターについて教えてください

光電融合技術が最も期待されている分野の一つがAIです。AIの進展に伴い産業全体で投資が拡大していますが、その一方で膨大な電力を消費し、現在では世界の発電量の約15%がデータセンターで使われると言われています。この課題に対し、NVIDIAなどは光電融合技術をGPUの並列化に活用し、低消費電力化を実現しようとしています。実際、彼らはTSMCと組み、光電融合パッケージを今秋に投入する予定です。時価総額世界一の企業がこの技術を採用することは、業界に大きなインパクトを与えています。

一方,これまで光チップ分野は日本のインジウムリン技術が強みを持ち、三菱電機のEML(電界吸収型直接変調レーザー)などが存在感を示してきましたが、新たな潮流によってこうした技術の優位性が失われないか心配な部分もあります。
国内では、NTTが光電融合への本格的な取り組みとして「IOWNグローバルフォーラム」を立ち上げ、Intelやソニーを含む異業種との連携を進めています。IOWN戦略の第1段階である「IOWN 1.0」では、APN(オールフォトニクスネットワーク)を展開し、通信デバイスというよりネットワーク基盤に重点を置いています。これは利用者が料金を払うことで専用の大容量回線を利用できる仕組みで、現在は100Gb/sから800Gb/sへと進化しています。

IOWN 2.0は「ディスアグリゲーテッドコンピューティング」を掲げ、コンピューター周辺のネットワークに重点を置いています。デバイス開発も含まれますが、中心はキャリアによるネットワークシステムです。

現在の光電融合研究の推進には経産省の戦略が大きく関わっています。そのステップは「ホップ・ステップ・ジャンプ」と呼ばれ、①TSMCを九州に誘致して量産を担う、②北海道でラピダスが最先端半導体を開発、③光電融合で世界をリードしゲームチェンジを起こす、という流れです。

この枠組みの中で、ポスト5GのNEDOプロジェクトはNTTを中心に進められています。また、GI(グリーンイノベーション)基金による研究では富士通、京セラ、古河ファイテルオプティカルコンポーネンツ、そして産総研が共同で参画しています。産総研もその一員として採択され、光電融合技術の研究を推進しています。

光電融合研究センターは,2025年4月、光電融合を専門とする研究センターとして新設されました。これまでは通信を中心に活動する「プラットフォームフォトニクス研究センター」でしたが、半導体戦略を背景に、現在は半導体融合デバイスを中心に据えつつ、ネットワークとも連携する形で運営されています。

また、2022年には光電融合に特化したコンソーシアム,GDC(次世代グリーンデータセンター用デバイス・システムに関する協議会)を立ち上げました。IOWNグローバルフォーラムがネットワーク中心であったのに対し、GDCは材料や装置といった部素材に焦点を当て、半導体や光コンポーネント企業の活躍の場を広げることを目的としています。

さらに2025年には、NTTと連携してIOWNグローバルフォーラム内に「光電融合用部素材ベンチマークタスクフォース」を設立しました。新しい材料や技術を迅速にデバイスへ取り入れるためには、共通の評価基準が不可欠です。そこで、産総研を中心にNTTも参画し、日本発の優れた材料を効率的に光電融合デバイスへ活用できるよう、基準作りを進めています。

光電融合研究センターは研究戦略として二つをメインで見ています。もちろん一つは光電融合技術ですが,光電融合は光だけじゃなくエレクトロニクスも必要なので、特に先ほどのコンソーシアムなどで、半導体の部素材の方と一緒に技術を作っていこうとしています。二つ目の取り組みはフォトニクスの強化です。テレコムへの応用がメインだった頃は,都市間など長距離光通信と呼ばれる研究をプラットフォームフォトニクス研究センターでしていましたが,昨今はテレコミュニケーションからデータコミュニケーション(データコム)となり,現在はコンピューター同士がダイレクトにデータのやり取りをするコンピューターコムを見据えた研究をしています。

長期的なビジョンはありますか?

半導体光電融合のチップからデバイス,パッケージングとそれを使ったシステムの開発までをやっていますが、今後は光のまま情報をやり取りする、光のまま計算をするようなことができる技術が必要だろうということで,将来を見据えて今期から新しく光演算研究チームを作りました。

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