放射光顕微メスバウアー分光装置の開発

ミニインタビュー

藤原先生に聞く
思いがけない応用が新しい価値を生む─放射光研究の挑戦

─研究を始めたきっかけを教えてください。

(藤原)学生時代,私は鉄の合成を扱う研究室に所属しており,その中で放射光メスバウアー分光法による鉄の2価・3価の明確な分離実験に取り組みました。特に,放射光が持つ広範なエネルギー領域からナノエレクトロンボルト(neV)といった非常に単色性の高い光を得て実験に用いることができる点に大きな衝撃を受け,強く興味を持ちました。その経験がきっかけとなり,現在は放射光メスバウアー分光に関わる顕微鏡の開発に携わっています。

─この研究の面白さを教えてください。

(藤原)放射光はキロエレクトロンボルトレベル(keV)の広いエネルギー領域をカバーしており,各種分光器を用いることで,ナノエレクトロンボルトという極めて低いエネルギー領域まで単色化することが可能です。特に,ナノエレクトロンボルトの短波長化した光を使った実験ができる点に大きな魅力を感じています。

─研究している中で苦労していることはありますか。

(藤原)使用している加速器はSPring-8ですが,放射光実験は時間的な制約が大きく,半年に一度しか課題申請や実験ができません。そのため,計画的に研究開発を進める必要があり,その点が難しさにつながっています。特に実験中に予期せぬ事態が起こると,その後どのように立て直すか,次はどんな測定を行なうかを常に考え続けなければなりません。そうした点は大変ではありますが,一方で試行錯誤しながら進めること自体が,この研究の面白さでもあると感じています。

─この研究がどのように応用されることを期待していますか。

(藤原)溶接などの局所加工やセラミックス材料への応用を想定していますが,むしろ自分では思いつかないような分野に広がっていくことを期待しています。意外な場面で活用されることで,新しい価値が生まれれば嬉しいですね。

─若手研究者が置かれている状況をどう見ていますか。

(藤原)任期付き雇用やパワハラ・アカハラといった問題が一時期話題になりましたが,少しずつ改善の方向に向かっていると感じています。ただ,その際に形成された,研究現場の悪いイメージが残ってしまい,人材がなかなか集まらない状況になりつつあるように思います。将来的には人手不足が研究開発に影響を与える可能性もあり,その点は懸念しています。

─さらに若手や学生に向けてメッセージをお願いします。

(藤原)研究活動は基本的に楽しいものだと感じています。もちろん先ほど触れたような課題はありますが,それでも研究の魅力とは大きいものです。あまり堅苦しく考えすぎず,一つの進路の選択肢として研究者という道を考えてもらえたら嬉しいです。

(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)

フジワラ コウスケ
所属:(国研)量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所 放射光科学研究センター 磁性科学研究グループ 主任研究員
略歴:2019年3月,岡山大学大学院 自然科学研究科 数理物理科学専攻 博士課程修了,博士(理学)取得。同年4月より,(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)産業利用推進室に博士研究員として着任。SPring-8, BL19B2の多軸回折計のユーザー支援業務に従事。2020年4月に(国研)量子科学技術研究開発機構(QST),関西光量子科学研究所 放射光科学研究センターに研究員として着任。SPring-8,BL11XUの放射光メスバウアー分光装置を担当している。2024年7月に現職の主任研究員となる。
趣味:資格取得(最近取得した資格「海上無線通信士」:国際航路のタンカー等で無線技師として通信を行なうための資格)

(月刊OPTRONICS 2025年10月号)

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