放射光顕微メスバウアー分光装置の開発

4.2 3次元マッピング計測の例(レーザーアブレーションされた57Fe箔)

応用的な測定手法として,内部転換電子を用いた3次元マッピングを行った例について紹介する。本手法は,内部転換電子の放出エネルギーが発生深さに依存する。つまり,表面付近から放出される電子は高エネルギーを持ち,より深部から放出される電子はエネルギーが低くなる。この性質を活用することで,電子のエネルギーごとに分けて測定を行うことにより,深さ方向の情報を得ることが可能となる。

今回,集光された放射光メスバウアー光源による二次元走査計測と,内部転換電子を用いた深さ分解計測を組み合わせることで,表面付近の三次元的な可視化を試みた(図5)。

図5 (a)3次元顕微分光測定のセットアップ。(b)レーザー処理後の57Fe箔試料。(c)X=–100 μm, Z=100 μmにおけるメスバウアースペクトル。
図5 (a)3次元顕微分光測定のセットアップ。(b)レーザー処理後の57Fe箔試料。(c)X=–100 μm, Z=100 μmにおけるメスバウアースペクトル。

応用対象として,我々はレーザーピーニング処理に着目した。レーザーピーニングは,水膜などを介して金属材料にパルスレーザーを照射し,発生するプラズマによって表面に圧縮応力を導入する技術である。これにより,通常の熱処理では得られない金属疲労の改善や,応力腐食割れの抑制が可能となり,原子炉やジェットエンジンなどの構造部材に広く応用されている。

本研究では,3次元計測によってレーザーピーニングによる改質領域の相同定およびその分布を明らかにすることを目的とした。今回は試験的な測定として,厚さ50 μmのα-57Feを含有する原料を用い,大気中でレーザー処理を施した試料を対象とした。レーザー処理条件は33 mJ/pulse,集光幅32 μm(1/e2),パルス幅7 nsecのパルスレーザーを10パルス照射した。照射後,直径約200 μmの照射痕が確認された。この照射点を中心にX方向とZ方向で2次元走査計測を行った。

内部転換電子は深さ分解計測のため11 keV以上の高エネルギー領域(深さ約30 nm相当),6.5−11 keVの中エネルギー領域(深さ60 nm相当),2−6.5 keVの低エネルギー領域(深さ約90 nm相当)の3つのエネルギー領域に分けて測定を行った。

図6(b)はX=–100 μm, Z=100 μmにおけるメスバウアースペクトルである。緑色で示される成分は原料由来のα-Feであり,赤色で示される成分はレーザー処理によって生成された改質相であることが判明した。特に,表面に近い領域ほど改質相の存在比が高く,レーザーによる改質が表面近傍で顕著に生じていることが確認された。一方で,同一箇所を透過計測で測定したところ,改質相は検出されなかった。

図6 改質相であるFeOの面積強度のマッピング。中央はスプライン補間による3次元イメージ図。
図6 改質相であるFeOの面積強度のマッピング。中央はスプライン補間による3次元イメージ図。

メスバウアーパラメータの解析結果から,改質相はFe1–xOであると同定された。さらに,このFe1–xOの分布を明らかにするため,図6の角に各エネルギー領域におけるFe1–xO相の面積強度をマッピングした。赤色に近い領域ほどFe1–xOの存在量が多いことを示しており,特に高エネルギー領域,すなわち表面付近にFe1–xOが多く分布していることが明らかとなった。

これらの結果を三次元空間上にプロットし,スプライン補間によって処理することで,Fe1–xOの三次元分布を可視化することに成功した。さらに,Fe1–xOは表面全体に広く分布していることが確認された10)

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