筑波大など、キラル高分子球体で「土星の輪」状レーザー発振を実証

筑波大学、東京大学、東京科学大学、および科学技術振興機構(JST)の研究グループは、渦状の分子配向を持つキラル(鏡像を重ね合わせることができない構造)なπ共役高分子マイクロ球体において、土星の輪のような円環状のレーザー発振を実証した(ニュースリリース)。

(図)ねじれ双極球体から円環放射状に放射するレーザー発振の様子を土星のような天体に見立てた模式図

光を微小空間で制御する技術は、次世代の光集積回路や局所センサーの実現に不可欠な要素である。発光性を示すπ共役高分子から形成されるマイクロ球体は、自らの光を閉じ込め増幅する光共振器として機能し、微小な有機レーザー素子への応用が期待されているが、従来の球体は等方的な形状ゆえに全方向に光が放射されてしまい、放射方向を特定することが困難であった。

本研究グループは、鏡像を重ね合わせることができない「キラル」な構造を有するπ共役ポリマーの自己組織化により、「ねじれ双極構造」と呼ばれる特異な分子配向を持つ固体マイクロ球体を作製した。偏光発光イメージングを用いた解析により、この球体表面では高分子主鎖がトポロジカル欠陥を中心に渦状に配列していることが初めて可視化された。この渦状の分子配向は、光が球体内を周回する経路(方位角)によって異なる屈折率をもたらすため、共振波長や発光位置が方位角に依存するという物理的特性を生じさせる。

(図)本研究で用いたキラルπ共役ポリマーの(S,S)-PFBTの分子構造と、ねじれ双極球体から特定の方位角(α)方向に光が共振し放射している模式図
(図)実際のねじれ双極球体1粒子に対し、その極方向(図左側)ならびに赤道方向(図右側)から撮影した直線偏光発光イメージング画像(図上側)と、そのモデル構造の模式図(図下側)

このねじれ双極球体をフェムト秒レーザーで励起したところ、特定の角度の閉じ込め経路で強い光共振が生じ、増幅された光が特定方向へ強く放射されるレーザー発振が実証された。この放射パターンは、球体から円環状に光が放たれる「土星の輪」のような形状を呈している。等方的な球体形状でありながら、表面に形成した渦状の分子配向を利用して光の放射方向を制御できることを示したのは、本研究が世界で初めての成果である。

(図)(a)ねじれ双極球体1粒子(直径3.6 μm)から観測されたレーザー発振スペクトル。各スペクトルの横の数字は励起光のパワー強度を表す。右上の両対数プロットは、励起光のパワーに対する発光スペクトルの面積を示しており、プロットの非線形性はレーザー発振を裏付ける特徴の一つである。(b)ねじれ双極球体1粒子からのレーザー発振強度の方位角依存測定の模式図。

今回の成果は、従来の球体光共振器の概念を覆す新しい光制御手法を提示するものであり、今後は分子配向やねじれ構造のさらなる精密設計を通じて、より高い指向性を持つマイクロレーザーや局所空間における偏光制御デバイス、高感度光センサーなどへの応用が期待される。本研究の内容は、2026年6月8日付で米国の学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

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