産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは、一般販売されている有機材料を用い、ペロブスカイト太陽電池の耐熱性と屋外耐久性向上を実証した(ニュースリリース)。

ペロブスカイト太陽電池の実用化においては、耐熱性の向上が課題の一つとして挙げられる。太陽電池を屋外に設置した場合、太陽電池の表面温度は夏季に70度以上に達する。高い変換効率を示すペロブスカイト太陽電池も、多くの場合は耐熱性が低く、高温環境下(85度)においてはわずか数十時間で初期性能の10分の1以下に低下する事例もあり、問題となっていた。熱劣化の原因は、ペロブスカイト太陽電池構成層の一つ、正孔輸送層の劣化が原因であるとされており、実用化に向けて、劣化しにくい正孔輸送層の開発が求められている。
研究グループでは、これまで高性能なペロブスカイト太陽電池の開発を目指し、熱劣化が少ない正孔輸送層の開発を進めてきた。ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層には、一般的に導電性を高めるための有機材料などが導入される。これにより、正孔輸送層の電荷輸送特性が改善されて太陽電池の発電効率が向上するため、ペロブスカイト太陽電池には必要不可欠なものとなっている。しかし、従来材料(4-tert-ブチルピリジン)ではペロブスカイト太陽電池の熱劣化を避けられなかった。それは、高温環境下において、導入された材料が正孔輸送層からペロブスカイト層へと熱拡散し、正孔輸送層内部にボイド(空孔)を生じるためである。そのため、熱拡散を防ぎ、構造劣化を抑制できる材料の開発が急務となっており、本研究ではこの課題に応える分子構造の探索を進めた。
従来用いていた4-tert-ブチルピリジンは、窒素(N)と炭素から構成されるピリジン環に炭素4個からなるtert-ブチル基(置換基)を持ち、窒素(N)の位置に対して、置換基が180度反対側に接続した分子構造が特徴となっている。ペロブスカイト層においては、分子は窒素(N)の方向に熱拡散すると考えられる。熱拡散する方向に対して、分子構造が直線的な構造のため、ペロブスカイト層に容易に熱拡散することが判明した。
そこで、拡散方向に対して直線的な構造ではない材料を用いることで、ペロブスカイト層への熱拡散を抑制できると考えた。この着想のもと、分子構造が拡散方向に対して非直線的なピリジン環と六員環からなる2-フェニルピリジンを正孔輸送層に導入して耐熱試験を行なったところ、高い耐熱性を示すことが分かった。試験後のサンプルを調べると、正孔輸送層内にボイドが生成していないことが分かり、この材料の使用によって熱劣化の原因である熱拡散を抑制できることが示された。これにより、ペロブスカイト太陽電池の耐熱性を大幅に向上させることに成功し、さらに2025年6月(夏季)~2026年2月(冬季)においても高い屋外耐久性を実証した。また、この材料は正孔輸送層の導電性を大きく上げるうえ、容易に入手することが可能。さらに、正孔輸送層を厚く塗布することができ、塗布工程が容易になるため量産プロセスにも適してる。


耐熱性を有する材料を探索するため、分子構造の異なる材料の検証を行なった。まず、分子構造が異なる36種類の分子を選定し、各分子がペロブスカイト太陽電池の耐熱性に与える影響を評価した。多様な物理物性を有する分子を網羅的に選定することで、どの物理パラメーターがペロブスカイト太陽電池の耐熱性に寄与するかを解析した。評価した物理物性としては、分子の歪み具合、沸点、溶解性、分子量、ガラス転移温度などが挙げられる。ここでの分子の歪み具合とは、窒素(N)原子の位置に対して、置換基が何度の角度に位置するかを意味する。
これらの材料探索の結果、耐熱性向上にはピリジン環の置換基の位置が重要な因子であることが明らかとなった。特に、ピリジンの窒素(N)原子に対して置換基であるフェニル基が60度または120度の位置にある場合に高い耐久性を示すことが分かり、耐熱性を向上させるための分子構造の設計指針を得ることに成功した。

研究グループは、非直線的なさまざまな分子構造を有する材料で試験を行ない、太陽電池のさらなる耐久性の向上を目指すという。耐熱試験に加え、耐湿試験、耐光試験、長期屋外暴露試験によって長期安定性を実証、さらに、ペロブスカイト組成の最適化や劣化抑制技術の導入などにより、寿命20年以上の高性能ペロブスカイト太陽電池を開発するとしている。



