金沢大、大気下でも製造可能で、長寿命なペロブスカイト太陽電池の開発に成功

金沢大学の研究グループは、大気下での成膜による製造と長寿命化を両立したペロブスカイト太陽電池の開発に成功した(ニュースリリース)。

研究グループは、現在主流のシリコン太陽電池が抱える「重い」「価格が高い」という課題を解決するため、次世代の太陽電池であるペロブスカイト太陽電池の工業化に向けた研究を進めている。特に、高速かつ連続的にフィルムへ製膜・乾燥処理を行う「ロールツーロール法(R2R法)」よる大量生産技術の確立に注力している。

しかしながら、ペロブスカイト太陽電池は水分に対して弱いという弱点があり、すぐに劣化してしまい寿命が短くなってしまうという課題がある。これの課題に対し、今回研究グループではペロブスカイト太陽電池の塗布成膜時に、イオン液体を少量添加するのみでペロブスカイト層の疎水性を向上させる技術を開発した。

この技術により、太陽電池の耐久性が向上し長寿命化したが、この報告では、実験室レベルの製膜方法である「スピンコート製膜法」を用いており、ペロブスカイト前駆体液を数センチ角の小さなガラス基板上に塗布し、最高で1秒に100回転という超高速回転させ、秒以下のスケールで急速乾燥を行なっていた。

(図)スピンコート製膜法:スピンコート装置写真(左)とその模式図(右)

加えて製膜環境も、ペロブスカイト層が劣化しないように窒素ガス雰囲気下で行われており、大気中での製膜には適していなかった。そのため、R2R法のように大気下で数分かけてゆっくり結晶化させる製膜条件に、我々のイオン液体添加技術が適応できるか懸念があった。

そこで、イオン液体による疎水性向上技術に加えて、R2R法と同じ製膜方式である「バーコート製膜法」を用いて、ペロブスカイト層の大気下成膜の実現を目指した。イオン液体はペロブスカイト前駆体溶液に少量添加することで、ペロブスカイト結晶と相互作用を形成する。これによりイオン液体が、ペロブスカイト膜表面に存在し水分子の侵入を防ぐ。その結果、大気中の水分子による結晶の分解が抑制され、高品質なペロブスカイト膜を得ることに成功した。

(図)バーコート製膜法:本研究で使用したバーコート装置写真(左)とその模式図(右)
(図)イオン液体無添加で欠陥が多数生じたペロブスカイト膜(上)とイオン液体を添加して高品質化したペロブスカイト膜(下)の表面電子顕微鏡写真

バーコート製膜法では、完全な結晶化までに5分以上を要します。この緩やかな結晶成長プロセスによって、ペロブスカイト前駆体が長時間下地層(膜)と接することができるため、基板との相互作用がより強くなる。これにより結晶が層状に成長するFrank-vander Merwe成長したと考えている。この研究では、この結晶成長によりスピンコート製膜法で得られるような粒状の結晶ではなく、結晶粒界の極めて少ない層状のペロブスカイト膜が得られた。

スピンコート製膜法では、結晶サイズが数百ナノメートルのため、我々の技術により高品質化したと考えられる。また、従来のスピンコート製膜法で作製したペロブスカイト太陽電池は400時間後には初期の半分以下の性能まで落ち込んだが、このイオン液体添加技術とバーコート技術による高品質化・結晶サイズの増大により、大気暴露試験において、湿度40%~50%の範囲の通常大気下でも1200時間にわたり性能の90%を保持するという高耐久性を示した。

(図)湿度40%~50%範囲の通常大気下での大気暴露試験の結果

現在、この成果の一部を用いて、環境省「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(R&D事業)」において、R2R法で幅30cm、長さ1mのペロブスカイト太陽電池モジュールを製造し、横浜港大さん橋国際客船ターミナル屋上広場にて、塩害や海風の強い港湾苛烈環境下での耐久性および発電能力の実証実験を行なっている。

(図)横浜港大さん橋国際客船ターミナル屋上広場に設置されているペロブスカイト太陽電池モジュール。モジュールサイズは30cm×1m。

これまでペロブスカイト太陽電池の製膜に必要とされていた、リチウムイオン電池やグローブボックス装置など、窒素ガス雰囲気を維持するための大掛かりで高価な装置を使わず、大気中で大量に低コストで製膜できるR2R法技術に、イオン液体添加技術を適用できることが分かった。将来のペロブスカイト太陽電池モジュールの社会実装に寄与することが期待できるという。

今後は、ペロブスカイト太陽電池のさらなる高性能化と低コスト化、そして大面積化を目指して研究を進めていくとしている。さらに、この研究をR2R法へのスケールアップに向けた大きな足掛かりとして、工業段階と基礎研究をつなぐ社会実装の中心拠点としての役割を果たすことが期待されている。

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