産業技術総合研究所(産総研)は、独自のナノ構造を利用した偏光シートを応用して、加工や設置が簡単で手軽に導入できる多段階調光ブラインドを開発した(ニュースリリース)。
従来の偏光板を使った調光ブラインドには、偏光軸が縦横の向きに並ぶように偏光板を切断し交互に貼り付け製造されているものがある。この場合、明るい/暗い、の二つの状態を切り替えることはできたが、段階的な調光は困難であった。また、段階的な調光を実現するものとしては、液晶などを用いた電動調光窓があるが、高価であったり、電源や配線の施工が複雑になったりするのが課題だった。そこで、加工や設置が簡単で手軽にでき、電源がなくても調光できる、シート状の調光ブラインドの実現が求められていた。
一般的な偏光板は、その製造方法のために面内の偏光軸は一方向にそろっている。偏光板を利用した調光ブラインドは、偏光軸の角度をずらした偏光板をつないで組み合わせることで段階的な調光が可能になるが、偏光板を切断して交互に貼り付けるような方法では製造工程が非効率なため、実現されていなかった。
一方、同社では、従来の偏光素子の課題を打破するため、その製造方法やナノ構造の形状を工夫した断面が三角波状ナノ構造の偏光シートを開発してきた。この偏光シートを調光ブラインドへ応用するべく、シート面上で偏光軸がいろいろな方向になっていても一括で同様に製造できるという開発技術の特徴を生かし、1枚のシート上に複数の異なる偏光軸領域をデザインしたパターン偏光シートの開発を進めてきた。
今回開発した段階調光型ブラインドのために作製したパターン偏光シートは、偏光軸が0°、30°、60°、90°、120°、150°の領域が並んだレイアウトをしており、重ね合わせた2枚の相対位置を変化させることでマリュスの法則に基づいてスライド操作だけで面内一様に透過率を段階的に制御できる。
このような偏光を利用した調光技術の概念はよく知られているものだったが、実際に製造することは簡単ではなく、窓サイズに対応可能な製造技術で実現することが課題であった。それに対して、今回、産総研がこれまでに開発してきた三角波状ナノ構造型偏光子の技術を応用し、ナノインプリントと真空成膜工程のみで製造できるパターン偏光シートを実現した。
従来必要だった偏光板のカット・貼り付け工程が要らず、パターン境界はナノメートルスケールでつながっており、さらにはパターンレイアウトを工夫することで良好な外観を実現している。今回は、2枚のパターン偏光子をスライドしたときに得られる偏光軸の角度差が0°(明るい状態)、 30°(やや明るい状態)、60°(やや暗い状態)、 90°(暗い状態)になるようにパターン偏光子をデザインし作製しているが、この段階数はニーズに合わせて変更できる。また、このパターン偏光シートは、将来的にはRoll to Roll 技術を適用し得るので、大面積で高効率な製造が可能になると見込まれる。
直線偏光のディスプレイに作製したパターン偏光シートをかざして観察すると、帯状の段階的な明暗模様が確認でき、帯状エリア毎に偏光軸が異なるレイアウトが実現できる。これを2枚重ね合わせた多段階調光ブラインドにおいて調光機能の実証に成功し、スライドする位置を0 mm、2 mm、4 mm、6 mmと操作したとき、可視光の透過率が30 %、24 %、13 %、4 %と段階的な調光制御ができることを確認している。この調光範囲を拡張する開発を進めており、ニーズに合わせてより明るい範囲で調光したり、より暗い範囲で調光したりすることもできる。
住居の窓だけでなく、手軽に導入し操作できる特長を生かして、オフィスや打ち合わせスペースの小窓、自動車や電車など移動体の窓、照明機器など幅広い用途での応用が期待できる。また、可視光だけでなく、近赤外や赤外線など波長が長い電磁波でも機能するため、住宅用などでニーズのある遮熱効果の調節への応用が期待できる。センサー用途(車載用赤外センサーなど)においても周囲の状況に応じてノイズとなる環境光の光量調整のニーズに応えることが期待でき、他には電磁波のシャッターのような使い方にも展開される可能性がある。
今後は、大面積化技術の構築・耐久性評価を進め、企業との連携を通じてこの技術の社会実装を推進し、あらゆる生活環境、ビジネス環境での省エネ・快適性向上を目指すという。さらに、パターン偏光シートは意匠性を付与した偏光アート表現なども可能。住宅用ブラインドの調光時に模様を浮かび上がらせるといった応用もできるほか、アート分野、エンターテインメント分野などで応用が期待できる。こうした異分野への展開も視野に入れ、幅広い用途での研究開発を進めていくとしている。







