熊本大、円偏光発光を示すキラルな無機結晶を発見

著者: オプトロニクス 編集部

熊本大学の研究グループは、無機バルク結晶として円偏光発光(CPL)を示すキラルカリウムユウロピウム塩を発見した(ニュースリリース)。

(図)(a)K3[Eu2(NO39]の単結晶・(b-d)偏光子(P)と検光子(A)の角度を変化させた偏光顕微鏡像

カリウムとランタノイドからなる硝酸塩K3[Ln2(NO39](Ln:ランタノイドイオン)は右手型・左手型の結晶構造をもつキラルな無機結晶の一つで、様々なランタノイドイオンを制御できる結晶。このような非対称場を有するこの結晶に発光性イオンを導入することで、キラル光学特性を得られることが期待されている。

ユウロピウムイオン(Eu3+)はランタノイドイオンの一つで赤色発光を示すイオンとして知られている。これまでK3[Ln2(NO39]にランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムイオンを導入した例は知られているが、ユウロピウムイオンからなる結晶は報告されていなかった。

そこで発光性イオンであるユウロピウムイオンをキラルなフレームワークをもつK3[Ln2(NO39]に導入することで無機結晶からの円偏光発光が得られるのではないかと着想した。

K3[Ln2(NO39]の単結晶は硝酸カリウムと硝酸ユウロピウムを含む水溶液から、溶媒蒸発法によって得られた。結晶のサイズは最大で約8mmであり大きな単結晶を得ることができた。また、K3[Ln2(NO39]は自然分晶し、左手型・右手型の結晶に自発的に分かれて結晶化することがわかった。

この結晶は偏光顕微鏡測定によって旋光性を直接確認でき、観察される色の違いから左手型・右手型の結晶を容易に識別できた。単結晶X線構造解析の結果、K3[Ln2(NO39]は鏡像関係にあるキラルな結晶構造をもつことがわかった。

ユウロピウムイオンは酸素イオンと歪んだ20面体構造を形成し、中心対称性を欠く非対称な配位環境中に存在していた。さらにこの化合物の単結晶はUVランプ照射下で赤色発光を示した。光学特性を詳しく調査したところ、K3[Ln2(NO39]はユウロピウムイオンのf-f遷移に由来したCPLスペクトルを示すことが確認された。CPLの評価指標である|glum|は0.023―0.026と比較的大きな値を示し、蛍光量子収率は96%と非常に高い値を示した。

(図)K3[Ln2(NO39]の(a)CPLスペクトル(b)glum値および(c)発光スペクトル

研究グループは、無機結晶の対称性を制御することにより、有機化合物に限らず完全な無機物からなる新しいCPL材料の創出が期待されるとしている。

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