金沢大学と東京科学大学は、ATP(アデノシン三リン酸)濃度を蛍光寿命という蛍光タンパク質の光学的特性に変換して測定できる、新しい蛍光センサーを開発した(ニュースリリース)。

私たちの体を構成する最小単位細胞では、さまざまな化学反応が起こっており、ATPはその燃料として働く。ATPはエネルギーの通貨とも呼ばれ、細胞活動の根幹を支えている。そのため、細胞内のどこに、どのくらいのATPが存在するのかを正確に測定することは、生命現象の理解に不可欠となっている。
これまで、細胞内の標的分子の濃度変化は、蛍光の明るさの変化として検出するセンサーが広く用いられてきた。しかしこの手法では、細胞の形状やセンサーの導入量、励起光の強度などの影響を強く受けるため、定量的な解析が困難という課題があった。
研究グループは、従来の輝度変化の代わりに、細胞内の標的分子の濃度を蛍光寿命値に変換できる蛍光センサーを着想した。蛍光寿命は、上記の輝度変化型センサーで課題となる複数の要因の影響を受けにくい、安定性の高い物理量。
ここで、蛍光寿命値と細胞内の標的分子の濃度情報と1対1で紐付けることができれば、信頼度の高い検量線を用いて細胞内の分子濃度を決定することが可能になる。研究グループは、細胞内のATPの濃度を蛍光寿命に変換できる新しいバイオセンサーを作ることに成功した。
このセンサーにより、定量性が著しく向上したことで、さまざまな細胞種間のATP濃度を比較することが可能になった。例えばミトコンドリア病では、ミトコンドリアの大事な機能の1つであるATP産生能に異常をきたしていることが予想されるが、実際、ミトコンドリア病患者では健常者の細胞に比較してミトコンドリアのATP濃度が低くなっていることが示唆された。
この差は0.3mM程度とわずかだが、このセンサーにより検出可能であることが実証された。また、がん治療において、転移能の高いがん細胞は、悪性度が高いとされる。今回、悪性度の高いがん細胞において細胞質のATP濃度が高いことが明らかとなった。

さらに、培養した細胞だけでなく、多細胞から構成されるショウジョウバエの脳におけるATP濃度分布の可視化にも成功している。
研究グループは、今後、この技術は、がん、神経疾患、代謝異常など、細胞エネルギー異常が関与する多くの疾患研究への応用が期待されるとしている。



