国立循環器病研究センター,九州大学,国立精神・神経医療研究センターは,細胞内アデノシン三リン酸(ATP)濃度を光としてみることできる「AVIDマウス」の開発に成功したと発表した(ニュースリリース)。
ATPとは,エネルギーを運搬するための主要な分子のことで,生物のエネルギー代謝の指標ともなる重要な物質。しかし,ATPが体のどこで,どれだけ使われているのかを,生きた状態でリアルタイムに調べる方法がなかった。従来は,組織を取り出して凍結・分析するなどの「一時点の断片的な情報」しか得られず,病気の初期サインや全身の連携反応を捉えることが困難だった。
この研究では,全身の臓器のエネルギー状態(ATP濃度)をリアルタイムに観察できるよう,マウスの体に特殊な蛍光センサーを発現させた「ATP可視化マウス(AVIDマウス)」を開発。エネルギー変化の見える化に成功した。これにより,臓器間の異変の連鎖を,従来にはないスピードとスケールで発見することが可能になる。
このマウスは,体の「どこで,いつ,どの程度」エネルギーが失われているかを光で観察でき,病気の予兆の発見,新薬の効果の評価,臓器間ネットワークの解明などに革新をもたらすツールとなるという。
心筋梗塞が起きて1週間ほど経って肝臓に壊死が生じることは知られており,原因や始まりは不明だったが,この研究により,心筋梗塞発症直後から肝臓でエネルギー低下が起きていることが初めて確認された。また,AVIDマウスでは,どの部位の筋肉が,「いつ,どれだけのエネルギーを使ったか」を視覚的に捉えられた。さらに,生体内の神経細胞の細胞体と樹状突起でATPの量に違いがあることが可視化されたという。
これらの新発見により,病態進行の理解,診断のタイミングの見直し,運動機能,筋疾患など研究やリハビリ,運動療法の設計,神経の興奮伝達や記憶形状,神経変性疾患の初期変化の解明などへの貢献が期待できるという。
このAVIDマウスは,心臓病,がん,認知症などの疾患研究や副作用の少ない薬の開発,効果的な投薬タイミングの検討,サプリメントや食品の評価,アスリートの身体評価やトレーニング法の研究に大きく貢献できると考えられており,今後は,MRIなどを用いたヒトへの応用に向けて,より高精度・安全な計測技術への発展を目指すとしている。
