東京科学大学の研究グループは,大規模量子計算の実現に不可欠な「量子誤り訂正技術」において,理論上の性能限界に極めて近い効果を持ちながら,高速に訂正する手法を発見した(ニュースリリース)。
実用的な量子アプリケーションの多くは数百万個以上の信頼できる論理量子ビットを必要とするため,大規模かつ効率的な量子誤り訂正技術の確立が急務となっている。その大規模化を妨げる最大の要因は,装置の安定性や制御技術に関わる工学的課題が挙げられる。
この研究では,これまで困難とされてきた大規模な量子誤り訂正を現実的に可能にする新しい量子LDPC符号を提案し,その性能を大規模シミュレーションで実証した。今回の成果は,古典的な誤り訂正技術に匹敵する性能を量子の世界で示した点で画期的だという。
アフィン置換を用いた新しい構成法により,復号性能を低下させる要因である短い閉路を符号構造から排除し,エラーフロアをフレーム誤り率が10-4に至るまで抑制することに成功した。さらに,ビット反転誤りと位相反転誤りを同時に扱う復号アルゴリズムを導入し,従来法では到達できなかったハッシング限界に迫る高い性能を実現した。
この研究の大きな特徴は,大規模化するほど復号性能が向上するスケーラビリティを備えていること,復号計算量が物理量子ビットの数に比例するだけの効率性を持つこと,そして数十万ビット規模の大きな符号においても極めて高い信頼性を確保できること。その結果,量子LDPC符号において,従来は不可能とされてきたハッシング限界近傍での高効率誤り訂正を実現した。この研究は,量子の分野がその水準に近づきつつあることを示すものであり,フォールトトレラント量子コンピュータの実現に向けた大きな一歩となる。
大規模な量子計算を可能にすることで,シミュレーション,新素材開発,最適化問題の解決,さらには暗号解析など,社会的に重要な応用が現実味を帯びてくる。今回,ハッシング限界に近い高い性能を示したことにより,量子誤り訂正の実用化が一段と現実的になり,フォールトトレラント量子コンピュータの実現に向けた道筋が具体的に見えてきた。
今後は,さらなるエラーの低減に向けて,縮退誤りの扱いや後処理技術の高度化を進める予定だという。また,これまで古典符号理論で発見されたアイデアを使ってより厳しいノイズも訂正できる比較的低い符号化率のスケーラブルな符号の設計を目指すとしている。長期的には,量子誤り訂正の理論とハードウェア設計を橋渡しすることで,大規模量子計算の実現に向けた道筋を提示している。
