埼玉大学,宇都宮大学,電力中央研究所,山形大学の共同研究チームは,モデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)において,CCR4Cというタンパク質が葉緑体内でNADP(H)を脱リン酸化する酵素(NADP ホスファターゼ)であることを明らかにした(ニュースリリース)。
植物は,光合成によって光エネルギーを利用し大気中の二酸化炭素を有機物に変換することで成長する。この過程で重要な役割を果たすのが,NAD(P)(H)と呼ばれる補酵素。NAD+とNADHは主に呼吸に関与し,NADP+とNADPHは光合成や脂質合成,さらには活性酸素からの生体防御に用いられる。葉緑体に局在するNADキナーゼ(NADK2)は,光合成電子伝達系にNADP+を供給する酵素。光エネルギーで励起された電子はNADP+に受け渡され,NADPHが生成される。葉緑体内のNADP(H)量は光環境やその他の条件に応じて変動し,厳密に調整されていることが示されている。しかし,NADP(H)の量を減らす仕組みは長らく不明であった。
この研究では,モデル植物シロイヌナズナにおいてNADK2が機能しない変異体(nadk2)の表現型を回復させる変異株をスクリーニングし,葉緑体に局在する新規酵素CCR4Cを同定した。CCR4CはNADP+およびNADPHをそれぞれNAD+,NADHに変換する脱リン酸化酵素(NADP ホスファターゼ)として機能し,葉緑体内のNAD(P)(H)量を調節する役割を持つことが判明した。さらに,CCR4C欠損株は活性酸素ストレスに対して耐性を示すとともに,nadk2変異体の葉の色や成長の異常も回復させることが明らかになった。これらの結果から,CCR4Cは葉緑体内のNAD(P)(H)量を調節する新規因子であることが示された。
植物細胞が葉緑体内でNAD(P)(H)量を制御する新たな仕組みをCCR4Cが担うことを明らかにした今回の成果は,持続可能な農業やカーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な基盤となる。今後は,CCR4Cを介したNAD(P)(H)調節の分子メカニズムや活性酸素ストレス応答との関係を詳細に解析し,光合成効率やストレス耐性を高める作物改良へと応用を進めていくという。また,科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ALCA-Next(先端的カーボンニュートラル技術開発)「フィージビリティスタディ(FS)課題」(2025年度採択)などを通じて,応用展開に向けた研究を加速していくとしている。




