農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、市販の軽量・小型装置による測定と数理モデルを組み合わせ、葉の光合成速度を高速かつ高精度に推定する手法を開発した(ニュースリリース)。
光合成速度の測定は約100年前から始まり、その間、「チャンバー法」と呼ばれる実測手法が用いられてきた。同手法は、光合成速度(葉がどれだけCO2を吸収したか)を正確に把握できる、最も標準的かつ高精度な実測法。しかし、チャンバー法を基にした市販の携帯型光合成測定装置は約10kgと重く、ほ場内を移動しながら多数のサンプルを測定するには多大な労力が必要となる。さらに、1枚の葉の測定にも数分間を要するため、育種研究のように何千もの植物個体の光合成速度を評価する必要がある場面での利用は、事実上不可能であった。今回の研究では、チャンバー法に代わる、市販の装置で簡易かつ高速に光合成速度を推定でき、さらに推定精度と汎用性も高い手法の開発を目指した。
今回開発した手法では、市販のポロメーター・クロロフィル蛍光測定装置を使用する。同装置は、葉を数秒間挟むだけで、光合成を左右する気孔コンダクタンスと光化学系IIの量子収率という重要な生理指標を同時に測定できる。これらの指標と、同装置で同時に測定できる光の強さ、葉温、大気のCO2濃度を光合成生化学モデルに入力することで、光合成速度を計算する。これまで、同装置を使った計測だけでは光合成速度自体を推定することはできなかったが、モデルと組み合わせることで高精度な推定が可能となった。装置によっては大気のCO2濃度は別途計測する必要がある。
同手法では、植物(作物)の種類やその生育環境の違いによる変化が大きい気孔コンダクタンスと光化学系IIの量子収率をどちらも実測しているため、測定する植物種や環境が変わっても推定誤差を最小限に抑えることができる。実際に、同手法を生育条件の異なる12種のC3植物(コムギ、ダイズ、トマト、ナス、パプリカ、ホウレンソウ、モモ、ナシ、リンゴ、ミカン、レモン、ビワ)を用いて自然光下で検証したところ、チャンバー法を基にした光合成測定装置で実測した値と同手法で推定した値の間の誤差が小さかったことから、葉の光合成速度を精度良く推定でき、かつ汎用性も高いことを確認できた。
銅手法は、ほ場での大規模サンプルの高速・高精度評価という、これまで満たされていなかったニーズに応えるもの。ポロメーター・クロロフィル蛍光測定装置は光合成測定装置の5~10分の1の軽さ(1kg程度)で、片手で操作できるほどコンパクトなため、ほ場での調査労力を大幅に軽減できる。また、測定時間も葉を挟んで数秒で完了するので、光合成測定装置の数倍~数十倍の速さで測定が可能。
同手法による光合成速度の推定精度と汎用性は、「実測」法であるチャンバー法には及ばないが、従来の「推定」手法と比較しても高精度であるため、成長や収量のポテンシャルを示す「指標」として利用するには十分と考えられる。なお、チャンバー法での光合成速度の実測は、精密な植物生理メカニズムの解明や、各種光合成推定法の校正には依然として不可欠。したがって、これらの手法は互いに補完し合う関係にあり、組み合わせて使用することでその真価を発揮する。例えば、精度の高いチャンバー法を用いて少数のサンプルで同手法を校正し、その後、校正した同手法を用いて大量のサンプルの光合成速度を推定する、といった使い方が可能。
現在、同手法とAIを組み合わせることで、光合成速度推定の精度と汎用性のさらなる向上を目指している。また、同手法に必要な指標はリモートセンシングでも推定可能なため、今後はさらに短時間で広範囲の光合成速度を推定することも可能。
同手法は現時点ではポロメーター・クロロフィル蛍光測定装置を用いて人が測定を行なう必要があるが、将来的に収穫ロボットなど自動ロボットの高度化が進めば、装置をロボットに搭載して自動で光合成データを取得することも可能になると考えている。そうすることで、データ取得のさらなる効率化・省力化が期待できる。今後はリモートセンシングや自動ロボットの研究者とも連携し、同手法のさらなる利便性向上を目指していくという。
光合成は作物生産を理解・予測するうえで極めて有用な情報である。同手法が様々な農業研究や植物の生育に関する研究・開発を加速し、食料の安定生産に貢献することを期待するとしている。





