東京大学と中国松山湖材料実験室の研究グループは,単一元素(金属)がガラス化するメカニズムを大規模シミュレーションにより解明した(ニュースリリース)。
金属ガラスは,結晶性金属にはない高強度や耐食性,優れた加工性などの特性を持つが,その多くは複数元素からなる合金系に限られており,単一元素がガラス化する例は極めて稀だった。単一元素のガラス化は,材料科学における基礎的な問いとして長年注目されてきたが,その物理的メカニズムは未解明だった。
研究グループは,超高速冷却下でガラス化するタンタル(Ta)と,同様の条件でも結晶化するZrを比較対象とし,過冷却液体状態からの結晶化・ガラス化過程を大規模分子動力学シミュレーションによって解析した。
まず,結晶化速度を評価したところ,Zrは極めて短時間で結晶化が進行する一方,Taではその速度が2桁以上遅く,ガラス化しやすいことが確認された。さらに,Taでは結晶化と準結晶化がほぼ同じ時間スケールで進行し,両者の秩序化が拮抗しながら競合していることが明らかになった。
この結晶化挙動の違いの起源を探るために液体構造の局所秩序を解析したところ,Taの過冷却液体では二十面体構造が高密度に形成され,これらが相互に連結して中距離秩序を構築していることが分かった。
この二十面体構造は結晶の規則構造と相容れず,結晶核形成の界面エネルギーを増大させることで結晶化を阻害する。しかし同時に,この秩序は準結晶的な中間構造の形成を助ける作用を持つ。シミュレーションでは,Taの準結晶形成が準結晶的中間相の形成を経由する非古典的な結晶化経路を通じて進行する様子が観察された。
すなわち,液体中に形成された二十面体構造群は濡れの効果によって界面エネルギーを低下させ,準結晶的な中距離秩序の発達を促する。その結果,結晶化が阻害されてガラス化が進む場合や,準結晶相の形成へとつながる場合がある。
一方で,Zrでは二十面体構造の形成が極めて少なく,液体から直接,結晶核が生成・成長する古典的な結晶化過程が支配的であることが明らかになり,ガラス形成には結晶化と競合する局所構造秩序が不可欠であることが実証された。
さらに,結晶化速度を決定する要因を詳細に解析した。結晶化における駆動力や拡散速度はTaとZrで大きな差がなく,決定的な違いは液体と結晶界面のエネルギーに起因することが判明した。
特にTaでは,液体中の二十面体秩序が界面エネルギーを高め,結晶化を抑制すると同時に準結晶核の形成を促進する役割を果たしていた。
研究グループは,金属ガラスや準結晶など幅広い先端材料の設計指針となることが期待される成果だとしている。
