九大ら,次元を超えて共通する量子もつれ法則を発見

著者: 梅村 舞香

九州大学と米カリフォルニア工科大学は,近年素粒子論において高次元理論の解析を大きく前進させた熱的有効理論と呼ばれる手法に着目し,この手法を量子情報に導入することで,任意の次元の量子系における量子もつれの構造に潜む普遍的振る舞いを見出すことに成功した(ニュースリリース)。

量子もつれは,量子計算や量子通信といった量子技術の基盤となる現象であり,その構造を理解することは理論的にも応用的にも極めて重要。この量子もつれの性質を定量的に表す指標のひとつに,Rényiエントロピーがある。

これは,量子状態の複雑さや情報の分布を測るための量であり,量子状態の分類,量子多体系のシミュレーションの実行可能性を評価する上で重要な役割を果たす。さらに,ブラックホールの情報喪失問題の理解に向けた理論的研究においてもRényiエントロピーは有力な手がかりとして用いられ,量子重力理論において頻繁に登場する。

このように,量子もつれ構造の解明は理論物理と量子情報の双方にとって中心的課題だが,これまでの研究の多くは1+1次元に限定されてきた。より高次元になると,量子もつれ構造の解析は急激に難しくなり,既存の数値手法も適用が困難になる。

研究グループは,素粒子論分野で発展した高次元系の理論的解析手法を量子情報理論に応用し,高次元における量子もつれ構造の普遍的な性質を明らかにすることを目指した。

研究グループは,近年素粒子論において高次元理論の解析を大きく前進させてきた,熱的有効理論に注目した。これは,複雑な理論において観測量がごく少数の支配的なパラメータにより特徴づけられる場合,その普遍的な振る舞いを抽出するための理論的枠組み。この枠組みを量子情報の文脈に導入し,高次元量子系におけるRényiエントロピーの解析に取り組んだ。

Rényiエントロピーはレプリカ数というパラメータによって特徴づけられる。研究グループは,レプリカ数が小さい領域でのRényiエントロピーの振る舞いが,理論の中で特に重要な物理量であるカシミアエネルギーなど,ごく少数のパラメータによって普遍的に支配されることを明らかにした。

また,この結果を応用することで,量子もつれの詳細な性質を示すエンタングルメントスペクトラムの固有値が大きい領域における振る舞いも明らかにした。加えて,Rényiエントロピーを測定する際の手法の違いによって,普遍的な振る舞いがどのように変化するかについても明らかにした。

研究グループは,今回の発見は,高次元量子系の数値シミュレーション手法の改良や,量子多体系の分類の新たな指針の提案に役立つことが期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 量子産業の未来図を描く

    量子への注目が世界的に高まるなか,トプティカフォトニクスのレーザーシステムが存在感を増している。日本での展開をさらに加速させているPresident and Chief Sales Officerのトーマス・レナー氏に,…

    2026.01.13
  • 京都大学など、人工次元で乱れに強い「トポロジカル原⼦レーザー」の発振に成功

    京都⼤学と東北⼤学は、極低温のルビジウム原⼦を⽤いた実験により、トポロジカル原⼦レーザーの発振に成功した(ニュースリリース)。 量⼦⼒学の世界において、外部環境とのエネルギーの出⼊りがある系は⾮エルミート量⼦系と呼ばれる…

    2026.01.13
  • 横国大とKEK,量子科学に関する研究を推進するための連携協定を締結

    横浜国立大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,2025年10月17日に量子科学に関する研究を推進するための連携協定を締結した(ニュースリリース)。 世界的に注目されている量子技術は,未来社会に向けて革新的なイノベ…

    2025.11.10
  • フォトニクスのアカデミー賞、SPIEプリズムアワード2026の最終候補者が決定

    国際光学・フォトニクス学会(SPIE)は,2026年Prism Awards(プリズムアワード)の最終候補製品を発表した。 Prism Awardsは「フォトニクスのアカデミー賞」とも称される国際的な表彰制度であり,光学…

    2025.11.07
  • 量子研究の卓越を称えて――TOPTICA,BEC 2025で画期的成果を表彰

    光学技術メーカーのTOPTICA Photonics SEは,スペインで開催された国際会議「Bose-Einstein Condensation 2025(BEC 2025)」において,超低温量子ガス分野で顕著な業績を挙…

    2025.10.27
  • 科学大,進化した量子誤り訂正法を考案

    東京科学大学の研究グループは,大規模量子計算の実現に不可欠な「量子誤り訂正技術」において,理論上の性能限界に極めて近い効果を持ちながら,高速に訂正する手法を発見した(ニュースリリース)。 実用的な量子アプリケーションの多…

    2025.10.22
  • NICT,単一光子の和周波で量子もつれ交換に成功

    情報通信研究機構(NICT)は,単一光子間の和周波発生を用いた量子もつれ交換の実証に成功した(ニュースリリース)。 量子通信や量子計算のような量子情報処理分野では,2つの量子ビット間でのゲート操作が重要な基盤技術となる。…

    2025.10.14
  • 横国大ら,光子シングルショット分光システムを開発

    横浜国立大学,ソニーグループ,LQUOMは,量子インターネットを実現する構成方式として有力な周波数多重化量子中継に向けて,単一光子のシングルショット高分解能分光システムの開発に成功した(ニュースリリース)。 量子通信は,…

    2025.10.01

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア