名古屋大学と理化学研究所は,薄い圧電単結晶ウエハー1枚のみで構成された形状可変ミラーの作製に成功した(ニュースリリース)。
形状可変ミラーは反射面の形状を調整することで,ミラーに反射された光の局所的な向きを制御することができる。そのため,宇宙望遠鏡や網膜イメージング,高強度レーザーの補償光学システムなど,さまざまな用途で活用されており,近年X線領域でも注目されている。
従来のX線用レンズは電子顕微鏡の電磁レンズのように光学パラメータを変えることができないため,実験条件がX線用レンズの設計値に制限されていたが,形状可変ミラーを用いることでこの問題を解決することができる。
しかし,従来の形状可変ミラーには,変形量を大きくできない課題があった。従来型では,変形の駆動源である圧電素子(電圧を加えると変形する材料)と,光を反射するミラー基板の異種材料を接合する必要があるため,形状可変ミラー全体の厚みを薄くできない。変形量は,厚みが薄いほど大きくなるため,ミラーの構造的な限界があった。
そこで研究グループは,ニオブ酸リチウム(LN)の分極反転特性に着目した。LNは圧電単結晶であるため,変形の駆動源にできる。さらに,研究グループは,これまでの開発において,LNの表面を光の反射面として利用できるレベルまで超平滑化できることに気付き,LNのみで構成されたX線形状可変ミラー(LNミラー)を実現してきた。
その一方で,LNミラーは均一な分極構造を有するため,このままでは数nm程度しか変形できず,光学パラメータを変更する目的において不十分。変形量を大きくするためにはバイモルフ構造の形成が不可欠だが,結局接合が必要になってしまう。
この課題を解決するために今回の研究では,LNの分極反転特性を利用した。LNは約1000℃の高温で加熱されると,分極構造が一部変化する。この特性により,接合することなくバイモルフ構造を形成できるため,ミラーの厚みを極限的に薄くすることができる。
実際にミラーを作製し変形量を評価したところ,マイクロメートルを超える大変形が可能であることを確認した。変形精度もナノメートルオーダーとX線を集光するにあたって十分な精度であり,ビームサイズを3400倍変化させることに成功した。
研究グループは,ビームサイズなどの光学パラメータを大きく変えることにより,多機能型X線分析の実現が期待されるとしている。