東大,超短パルスレーザーを用い相対論効果を確認

東京大学の研究グループは,強レーザー場超高分解能フーリエ変換(SURF)分光法に長尺干渉計を組み込むことによって,クリプトンイオン(Kr+)の2P1/22P3/2状態間のエネルギー差における同位体シフト を高い精度で測定し,相対論効果によって電子密度分布が歪むことを確認した(ニュースリリース)。

原子の微細構造分裂エネルギーの同位体効果は,相対論効果による電子密度分布の歪みを観測する理想的な系であることが知られている。しかし,実験上のさまざまな制約のために,その報告例は,この40年程前のバリウムイオンとフランシウム原子についての報告に限られていた。

研究グループは,SURF分光法に長尺干渉計を導入し,Kr+の微細構造分裂エネルギーとその同位体シフトを高精度で測定した。SURF分光では,まずポンプレーザーでKrをトンネルイオン化し,生成されたKr+の電子状態が時間と共に変化する。

これに遅延をおいたプローブレーザーを照射し,2価イオン(Kr2+)の生成収量を時間依存で測定。その収量の振動周期(τSO)をフーリエ変換することで,2P1/22P3/2間の微細構造分裂エネルギーを決定できる。

特に,質量数が偶数の同位体では2P1/22P3/2準位の重ね合わせ状態が単純な振動を示すが,83Krのような奇数質量数の同位体では,核スピンとの相互作用により複雑な超微細構造振動を示す。今回の研究では干渉計を用いて13nsの遅延時間(光路差5.2m)を実現し,測定精度を向上させた。

さらに,同位体シフトのフィールドシフトパラメーターを評価した結果,相対論効果に起因するP1/2軌道の電子密度分布の歪みを観測。フィールドシフトパラメーターが負であることから,P1/2電子が原子核近傍に存在することが示され,原子物理における相対論効果の新たな知見が得られた。

研究グループは,このSURF分光法の測定精度をさらに高めれば,同位体シフトに基づいて,標準模型を超えた議論ができると期待されるとしている。

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