北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と日本製鉄は,高分解能透過電子顕微鏡法とデータ科学手法を組み合わせた格子相関解析を開発した(ニュースリリース)。
金属酸化物ナノ粒子や金属オキシ水酸化物ナノ粒子は,触媒,エネルギー変換,吸着材など現代の産業において不可欠な機能材料。これらのナノ粒子は,同一の組成であっても構造の違いにより物性が大きく異なるため,正確な構造解析が必要となっている。
通常のX線回折法やラマン分光法などでは,数ナノメートル程度のサイズのナノ粒子ではピークが不明瞭であり,解析が困難。特に,今回の研究の対象であるメタチタン酸ナノ粒子は,構造中に多くの欠陥を含むことから,従来の構造解析が難しいとされてきた。
研究グループは,透過電子顕微鏡(TEM)を用いて,メタチタン酸ナノ粒子の三次元構造を解明した。ナノ粒子の構造解析には,生物分野で用いられる単粒子解析のように,様々な方位から観察した像が用いられるが,メタチタン酸ナノ粒子のように形状が不均一な場合,従来の画像を単純に重ね合わせる手法では対応できない。
そこで今回の研究では,FFT(高速フーリエ変換)を用いて得られた格子の間隔や角度の相関を統計的に解析し,構造情報を導出する新たな手法を開発した。
具体的には,TEM試料上にランダムな方位で分散したナノ粒子から得られた500枚の高解像度TEM像から約1300個のナノ粒子を検出し,それぞれの画像に対してFFTを実行し,メタチタン酸ナノ粒子がもつ特徴的な格子相関を統計的に得ることで構造に関する三次元情報を得た。
その結果,メタチタン酸ナノ粒子の構造は,アナターゼ型酸化チタン(TiO2)を骨格としながら,TiO2層とTi(OH)4層が交互に積層する特異な構造であることが明らかとなった。
この構造モデルは,密度汎関数理論(DFT)による計算で安定性が確認され,さらに環状暗視野STEM観察によって得られた像とも一致し,提案された構造の妥当性が裏付けられた。
開発した格子相関解析は,従来と比べて1/20から1/500程度の低い電子線照射量で三次元的な結晶構造の解明を可能とする。研究グループは,このような材料の構造解明に弾みをつける新たな手法であり,多彩な物性の理解に貢献すると期待されるとしている。