京大ら,潮汐破壊現象の最高精度の偏光観測に成功

京都大学らの研究グループは,京都大学せいめい望遠鏡・国立天文台すばる望遠鏡をはじめとする国際的な望遠鏡網により潮汐破壊現象AT2023clxを詳細に観測し,潮汐破壊現象に伴うガスの噴出方向と銀河中心環境が空間的に直交するという,特異な幾何構造を明らかにした(ニュースリリース)。

銀河の中心に存在する超大質量ブラックホール(SMBH)に恒星が接近すると,その強力な重力によって恒星が引き裂かれ,明るく光り輝く。潮汐破壊現象(TDE)と呼ばれるこの現象は極めて稀で,詳細な観測例は限られていた。

2023年2月22日に,地球から約50Mpcの距離にある銀河NGC3799の中心で,急激に増光するAT2023clxという現象が発見された。研究グループは京都大学3.8mせいめい望遠鏡を用いて迅速な観測を行ない,AT2023clxがTDEであることを世界に先駆けて同定した。

研究グループは続いて,ハワイにあるすばる8.2m望遠鏡,スペイン・ラパルマ島にある北欧光学望遠鏡(NOT)2m望遠鏡等を用いた国際的な追跡観測を行なった。

研究グループは,すばる望遠鏡を用いて,偏光分光観測でAT2023clxを観測した。これは,天体からの光の分光観測に加え,偏光を測定する手法。偏光は,光源の幾何学的な非対称性の情報を知るために非常に強力な手法だが,極めて高い測定精度が必要なため,明るい天体かつ大口径望遠鏡での観測が必要となる。

TDEは一般に地球から遠く離れた宇宙で生じるため暗く,偏光分光観測を行なったサンプルはこれまで数天体しかなく,そのほとんどが一つの天体に対し一回の観測にとどまっている。AT2023clxは50Mpcという観測史上最近傍で生じた(したがって見かけ上明るい)TDE の一つであり,すばる望遠鏡を用いることで非常に高精度の偏光分光観測をTDEの明るさの変化に沿って3回行なうという,これまでにない観測が実現した。

その結果,ブラックホールから噴き出すガスの流れと銀河中心SMBH周辺に存在する塵からなる円盤状(トーラス)の構造が,空間的に90度直交するという特異な配置が明らかになった。一般的には銀河中心の星はランダム運動をすると考えられているが,研究結果は,SMBH周辺環境が銀河中心の恒星軌道に影響を与える可能性を示唆するものだという。

この成果は,「せいめい望遠鏡による天体同定から国際的観測網へ」という理想的な観測連携の成果であり,研究グループは,TDEを通じて銀河中心環境の性質や構造まで読み解ける可能性を実証したものだとしている。

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