次世代ICT基盤の研究成果を公開 NICTオープンハウス2026

情報通信研究機構(NICT)の最新の研究・開発が公開される「NICTオープンハウス2026」が2026年6月19日と20日の2日間、東京都小金井市のNICT本部で開催された。

初日の19日には、NICT理事長の大野英男氏による基調講演が行なわれ、今回のオープンハウスで紹介された光通信技術をはじめとする次世代の情報通信基盤等への取り組みについて語られた。大野氏は「情報通信は、社会のあらゆる活動を支える基盤そのものであり、国力や安全保障に直結するもの」とした。AI・コミュニケーション、Beyond 5G、量子ICT、サイバーセキュリティは、第6期中長期計画における重要な戦略領域に位置づけられているとし、それぞれの領域の紹介を行なった。

基調講演に登壇したNICT理事長・大野英男氏

大野氏は、モバイル通信量が今後さらに増大すると見込まれる中、超大容量化と省電力化を両立する光通信技術の重要性を強調した。NICTが長年取り組んできたマルチコア光ファイバーや空間多重伝送技術、さらに光のまま情報を伝送・交換するオールフォトニクスネットワークが、Beyond 5G時代の基盤技術になると説明した。

こうしたNICTによる情報通信技術の研究戦略がある中で、今回編集部では今年のNICTオープンハウスで紹介されていた4つの技術を紹介する。

深紫外光ICTデバイス技術

まず紹介するのは、深紫外光ICTデバイスの研究開発だ。同研究では、従来の性能限界を超える深紫外LEDや深紫外光ICTデバイスの実現を目指している。深紫外光は、従来光源である水銀ランプの代替に加え、殺菌、医療、環境、安全衛生、情報通信、センシングなど、幅広い分野での活用が見込まれている。
社会実装に向けた成果として注目されるのが、旭化成との共同で開発した鉄道車両用の空気殺菌モジュールだ。発光波長265nm帯の高強度深紫外LEDを搭載し、静岡鉄道の実運行中の車両内で試験運転を実施した。水銀ランプを用いた従来モジュールと比べ、ウイルス不活性化に要する消費電力量を40%以上削減し、安全かつ安定した動作を確認したという。

小型・省電力な深紫外LEDは、公共交通機関や医療施設など、衛生管理が求められる空間での活用が期待される。さらに今後は、太陽光による背景ノイズの影響を受けにくいDUVソーラーブラインド通信や、新たな固体光源による光周波数資源の拡大など、情報通信分野への展開も見込まれる。

ポスト5G/6Gで注目のテラヘルツ波帯無線通信技術

次に注目したのは、Beyond 5Gでの利用が期待されるテラヘルツ帯無線通信に向けた光源・光デバイス技術だ。テラヘルツ波は、ミリ波より高い周波数に位置し、大容量無線通信や高感度センシングへの応用が期待されている。

展示されていたのは半導体レーザー、光共振器、高速光検出器を組み合わせた構成を持つマイクロコムデバイスで、従来の大型レーザー装置を小型チップ上に集積できる点が大きな特長となっている。高Q値の光共振器内に光を閉じ込めることで強い電界を発生させ、非線形効果によって光周波数軸上に等間隔に並ぶ周波数コムを生成する。このうち2本の光のビートを高速光検出器で取り出すことで、例えば600GHzの狭線幅テラヘルツ信号を発生させることができる。

NICTでは、半導体レーザーや光共振器などのコンポーネントを集積化し、モジュールとして利用できる信号源の実現を目指している。将来的には、テラヘルツ通信の基準信号源としての利用に加え、計測器や光通信受信機の評価、高感度分光分析などへの展開が期待される。

マイクロコムデバイス(写真左)と、マイクロリゾネーター(写真右の円で囲まれている箇所)

衛星光通信における大気ゆらぎ補正技術

NICTでは、衛星―地上間の光通信における大気ゆらぎの影響を低減するため、補償光学を用いたレーザー光の補正技術も研究している。

衛星と地上局を結ぶ光通信では、レーザー光を用いることで大容量通信が期待できる一方、地球大気の影響が大きな課題となる。大気中には温度のむらに起因する密度のむらが存在しており、レーザー光がその中を通過すると、光の波面が乱れ、波面上の各点で位相がずれてしまう。その結果、受信した光をシングルモードファイバーへ効率よく結合することが難しくなり、通信品質の低下につながる。

展示では、大気ゆらぎを受けたレーザー光の様子が映像で示された。大気の影響を受けた光は、照射位置が揺れ動き、強度も低下して見える。これに対し、補償光学を適用すると、乱れた光が中心に集まり、明るさも増す様子が確認できた。

補償の仕組みは、望遠鏡で集めた光の波面の乱れを波面センサーで測定し、その情報をもとに可変鏡を制御するというもの。可変鏡は表面形状を微細に変化させることができるミラーで、乱れた波面を打ち消すように反射面を変形させる。これにより、ゆがんだ波面を平らな状態に近づけ、光を安定してファイバーへ導くことができる。

衛星光通信は、将来の大容量通信インフラや非地上系ネットワークの重要な要素として期待されている。大気ゆらぎによる結合効率の低下を補償光学で抑える技術は、衛星―地上間の光通信を安定化し、実用性を高めるための基盤技術となる。

レーザー光補正の仕組み(写真左)と、補正された光の様子(写真右)。光が中心に集まっていることが分かる。

光格子時計とイオントラップ光時計

光領域の原子時計である「光格子時計」と「イオントラップ光時計」の研究開発も紹介されていた。これらは、高い周波数の光を用いることで、従来よりもさらに高精度な時間・周波数の生成を可能にする次世代の原子時計として期待されている。

光格子時計は、レーザー光の定在波によって多数の原子を捕捉し、その原子が特定の光周波数を吸収する性質を利用する。一方、イオントラップ光時計は、原子をイオン化し、電場の力で捕捉して基準となる周波数を得る。いずれも、原子がレーザー光の特定の周波数を吸収するようにレーザー周波数を精密に調整し、その光信号を光周波数コムによってラジオ周波数信号へ変換することで、時刻や周波数標準として利用する。

NICTが開発したストロンチウム光格子時計は、すでに日本標準時の生成に利用され、協定世界時の高精度化と維持にも貢献している。また、高精度な光時計は、設置場所の重力の違いによって時間の進み方がわずかに変化する一般相対論効果を利用し、標高のリアルタイム計測にも応用できる可能性がある。

今後は、国際的に検討されている「秒の再定義」への貢献に加え、異なる原子種の光原子時計による日本標準時の校正、さらにオール光ネットワークにおける基準周波数としての利用が期待される。光時計は、時間を測る技術にとどまらず、通信、測地、基礎物理、社会インフラを支える超精密な基盤技術として発展が見込まれている。

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