国立遺伝学研究所ら,光合成の高コスト性を解明

著者: 望月 あゆ子

国立遺伝学研究所,静岡大学,琉球大学は,単細胞生物が光合成を行なう際に必要な装置や膜構造の合成・維持は細胞にとって大きなコストとなっていることを明らかにした(ニュースリリース)。

多細胞生物の細胞分化に負けず劣らず,単細胞生物においても,周囲の環境や生活環に応じて細胞の形態や性質を大きく変化させる例が数多く知られている。

なかでも単細胞藻類において,無機物しか利用できない条件では,緑色などの色素を用いて光を吸収し,光合成によって増殖する一方で,環境中に利用可能な有機炭素源が存在すると,細胞が可逆的に白色化して光合成能力を失い,有機炭素源を利用して増殖する種が,幅広い系統にわたって存在する。

このような藻類の栄養性の切り替えは,のちに進化して現れた多細胞植物における細胞分化の起源である可能性も考えられる。しかし,これらの藻類は非モデル生物であり,栄養性の切り替えの生態学的意義やその分子メカニズムはこれまでほとんど明らかになっていなかった。

研究グループは,明瞭な栄養性の切り替え機構をもち,遺伝的改変技術を開発してきた単細胞紅藻ガルデリア(Galdieria partita)の独立栄養状態の緑色細胞,従属栄養状態の白色細胞,およびその遷移過程の細胞を,さまざまな手法を用いて比較解析した。

その結果,白色細胞では緑色細胞に比べて葉緑体の体積および内部の膜構造が著しく縮退しており,光合成色素と光合成活性をほとんど失っている一方で,ミトコンドリアの体積と呼吸活性が増加し,緑色細胞の1.6倍の増殖速度を示すことがわかった。

また,細胞組成を比較したところ,緑色細胞は白色細胞よりも窒素を1.5倍,タンパク質を1.3倍,脂肪酸を1.7倍多く含んでおり,これらの物質の多くが光合成装置やそれを多数配置するための膜の合成に使われていることも明らかとなった。さらに,ガルデリア細胞が白色化するかどうかは,細胞外に存在する糖の有無や種類によって決まり,光の有無は決定要因ではないこともわかった。

これらの結果から,光合成を行なうために必要な装置や膜構造の合成・維持は細胞にとって大きなコストとなっており,外部に利用可能な有機炭素源がある環境では,光が存在していても細胞はそれらの合成を停止し,従属栄養成長に切り替えることでより高い増殖速度を実現していることが示唆されたという。

研究グループは,今後ガルデリアの遺伝的改変技術を活用した栄養性切り替え機構の分子レベルでの解明や,多細胞植物における細胞分化との共通点や進化的関連の解明が期待されるとしている。

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