
台湾大学,独フィリップ大学マールブルグ,大阪大学,台湾中央研究院・生物化學研究所,理化学研究所,高輝度光科学研究センター,東北大学,京都大学,兵庫県立大学,名古屋大学,仏グルノーブル・アルプ大学,欧州シンクロトロン放射光研究所は,緑藻類をはじめとした植物やハエの内に存在する青色光受容タンパク質であるクリプトクロムの,光受容後10ナノ秒から233ミリ秒にわたる中間体の立体構造を解明した(ニュースリリース)。
植物の生育やシグナル伝達・概日リズム形成などに関与する青色光受容型クリプトクロムは,発色団であるフラビンアデニンジヌクレオチドの光還元反応によって下流因子へとシグナル伝達すると考えられていたが,その詳細な分子機構については解明されていなかった。
今回,研究グループは,青色光受容クリプトクロムの一つであるクラミドモナス由来動物型クリプトクロム(CraCRY)の微結晶をターゲットとし,まずは異なるFAD酸化状態を有するCraCRYの三次元構造をSACLAにて明らかにした。
酸化状態(FADox)および二電子還元状態FAD(FADH–)を有するCraCRYでは全体構造は概ね一致した一方で,一電子還元状態中性FADラジカル(FADH•)を有するCraCRYはC末端領域において電子密度の喪失が認められ,この部分の構造を決定することができなかった。このことから,FADoxからFADH•への変化に伴うタンパク質構造変化が光応答機能発現の鍵となることを見出した。
続いて,FADoxを有するCraCRY微結晶を用いて,光励起後10ナノ秒から233ミリ秒における反応中間体の三次元構造をTR-SFXによって解明しした。その結果,①FAD近傍,②FADに隣接する溶媒露出部位,および③C末端領域の3箇所が,異なる時間領域で構造変化することがわかった。これらのデータから,クリプトクロムが光に応答して下流因子へとシグナル伝達を担う構造へと遷移する分子機構を解明した。
研究グループは,青色光受容クリプトクロムが光を検知した後の構造を経時的に解析することで,クリプトクロムの光応答機構の詳細な描像を与えることができたことから,基礎科学の理解に大きく貢献するとしている。
また,クリプトクロムはオプトジェネティクス(光遺伝学)のツールの一つとなりうることが示唆されており,今回の研究から,より高活性な人工光遺伝学ツールの創成などへの応用研究への道が開けたとしている。