広島大学,九州工業大学,高知大学は,南アフリカ原産のソテツ類の一種,ヒメオニソテツの葉が「青色」に見える理由を実験的手法と光の挙動のコンピューターシミュレーションを用いて科学的に説明することに成功した(ニュースリリース)。
ヒメオニソテツは特徴的な青色の葉を持つことで知られているが,青色の色素を持っていない同種の葉が青色に見える理由は,これまで証明されていなかった。
植物の地上部の表面は,表層脂質と呼ばれるバリア成分によってコーティングされており,乾燥など環境ストレスから守られている。さらに,植物種によっては結晶化した表層脂質である「ワックス結晶」を持ち,ヒメオニソテツの葉の表面にもワックス結晶が多量に存在している。その葉のワックス結晶を指でかるくなぞって落とすと,青色が消えて濃い緑色が現れる。
また,葉の反射スペクトルを取得したところ,ワックス結晶があるときにだけ,紫外から青色光を中心とした強い反射を持つことがわかった。したがって,青色に見える手がかりのひとつは,葉の表面に多量に分泌されてくるワックス結晶にあると考えられた。
ヒメオニソテツのワックス結晶について脂質分析を行なったところ,nonacosan-10-olを主体としていることがわかった。nonacosan-10-olは直径0.1μmほどの円柱状の結晶形状を取ることが知られている分子。走査型電子顕微鏡を用いた観察からも,同種の持つワックス結晶は0.1μm前後の微細形状を持つことが確かめられた。したがって,青色はワックス結晶の形状による「構造色」として説明することができる。
ところが,ワックス結晶を壊さずに葉の表面のみをそっと剥がしとっても,青色に見えなくなってしまう。その一方で,その剥がし取った表面をもう一度濃い緑色の背景に密着させると,再び元の青色が現れる。ただし,薄い黄緑色の背景に密着させても,青色にはならない。
そこで,モンテカルロ・マルチレイヤー・シミュレーションを用いてこの現象を検証したところ,青色に見えるのは,葉の表層に存在する直径0.1μmほどの微細なワックス結晶による「構造色」が存在することに加えて,葉緑素を多く持つことによる濃緑色の光合成組織が下地として存在することによる「光の散乱抑制」との相乗効果であることがわかった。
今回の研究は,生物模倣(バイオミメティクス)による新規素材開発を進める上での一助となる期待もあるもの。ヒメオニソテツが作り出すワックス結晶は,青色だけでなく紫外線も強く反射する特性を持つこともわかったことから,研究グループは,新素材開発の一助になる期待もあるとしている。