豊田工業大学の山口眞史名誉教授が,令和7年春の紫綬褒章を受章した(ニュースリリース)。
紫綬褒章は,科学技術分野における発明・発見や,学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績を挙げた人物に授与される。
同氏は,現在の宇宙用太陽電池の主流である高効率インジウムガリウムリン(InGaP)系多接合太陽電池の実用化に大きく貢献した功績が評価された。
シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などの一つの半導体材料で構成された単接合太陽電池の変換効率は,理論的には30%程度が限界。しかし,宇宙用途では,衛星軌道の安定性などのため小面積で十分な電力が得られる必要があることから,さらに高い変換効率が求められる。
この問題を解決するため,光の吸収波長の異なる複数の半導体材料からなる太陽電池を積層し,幅の広い太陽光スペクトルを有効に活用した多接合太陽電池の研究開発が世界的に行なわれている。その一方で,異なる材料の太陽電池を積層した接合部分において,高効率化の実現に必要な低い抵抗が得られないなどの問題があった。
これに対し同氏は,複数の太陽電池を接続するトンネル接合層の両側を太陽電池材料と比較して禁制帯幅の広い半導体材料を含む薄い半導体層で挟んだ,だダブルヘテロ構造トンネルダイオードを提案し,従来の課題を克服した。その結果,太陽光の利用効率を非集光で37.9%,集光下で44.4%(2013年当時世界最高効率)にまで向上させることができた。
一方,宇宙用の太陽電池においては,宇宙空間での使用時に放射線の影響を受けて変換効率が次第に低下する問題がある。この問題に対して同氏は,インジウムリン(InP)系の材料が,高い放射線耐性を有する太陽電池用半導体材料であることを発見し,2倍以上の放射線耐性を有する多接合太陽電池の実用化に貢献した。
現在,InGaP系多接合太陽電池は,世界中のほとんどの人工衛星に採用されている。また,この研究の成果を活用して実用化されたガリウム(Ga)ドープ結晶Si太陽電池は,地上用で主流の結晶Si太陽電池のシェア7割程度を占めているという。
同学では今後さらに,50%を超える宇宙用高効率太陽電池技術の開発やそれら技術を応用することにより,将来のクリーンエネルギー社会基盤の構築に大きく寄与することが期待されるとしている。