大阪大学,先導的学際研究機構らの研究グループは,2種類のパワーレーザーを用いたレーザー宇宙物理学実験を実施し,宇宙プラズマ衝撃波による宇宙線の選択的加速の実験室での観測に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
宇宙プラズマ衝撃波は高エネルギー天体などで発生し,ここで宇宙線が加速されていると考えられている。しかし,宇宙線の生成機構や,観測されているようなエネルギー分布をなぜ示しているのかなどは解明されていない。
宇宙プラズマ衝撃波や宇宙線の生成など,宇宙でおこる物理現象の研究には,人工衛星による「その場」観測や望遠鏡を用いたリモート観測と,理論・シミュレーションが行なわれている。これらに加え,近年は大型パワーレーザーが開発されたことで,実験室で「レーザー宇宙物理学」研究が行なわれるようになっている。
実験では様々な条件を制御して,何度も現象を調べることができる。また,衝撃波の全体構造と,局所的なプラズマ温度・密度・速度などの物理量を同時に計測することが可能。そのため,室内実験が可能になれば,従来とは異なる研究方法で,宇宙物理学の理解が飛躍的に進展する可能性がある。
研究グループは,レーザー宇宙物理学の研究方法を用いて,実験室で宇宙線加速の機構解明に取り組んだ。プラスチック薄膜にパワーレーザーである激光XII号からのパルス幅がナノ秒のレーザー光を照射すると,薄膜がプラズマ化して広がっていく。数ナノ秒後に,このプラズマに同じくパワーレーザーであるLFEXからのパルス幅がピコ秒の強度の高いレーザー光を照射すると,LFEXレーザーの圧力でプラズマが押され,プラズマ衝撃波が生成された。
さらに,LFEXレーザーの強度を,また照射タイミングを変えることによってプラズマの密度を,それぞれ最適化した。その結果,炭素イオンと水素イオンを含むプラズマから,水素イオンのみが選択的に加速されるという,プラズマ衝撃波による加速に特有な選択的なイオン加速現象を世界で初めて実験でとらえることに成功したという。
宇宙線は人工衛星の故障や宇宙飛行士の被ばくの原因となり,星や惑星の形成,惑星の長期的な気候変動,生命の進化にも影響を与えると考えられている。今回成功した,大型のパワーレーザーを使用したプラズマ衝撃波による宇宙線生成の方法を用いて,宇宙線研究の進展が期待するとしている。