日本電信電話(NTT)は,光通信用デバイスに用いる半導体薄膜の成膜条件(原料ガス量)を,半導体物性の知識を取り入れた機械学習により自動導出する手法を実現した(ニュースリリース)。
今回,MOCVD法により,光通信用デバイスで広く用いている化合物半導体材料(インジウムリン(InP)基板上にインジウムガリウムヒ素リン(In(1-x)Ga(x)As(y)P(1-y)))の成膜を行なった。
同社はこれまで「ベイズ最適化(Bayesian Optimization(BO)」を用いて,世界で初めて超高品質な酸化物薄膜(SrRuO3)の作製に成功している。BOは,最小限の試行で最適解を見つける機械学習手法。今回の手法は,目的とする組成の結晶を成膜するための原料ガス量を高精度に予測するもの。
具体的には,半導体物性の知識を導入したベイズ最適化(PI-BO)を利用し,2つの工夫を行なった。1つ目の,結晶組成と原料ガス量を紐づけた点。従来手法は,原料ガス量とバンドギャップ波長や格子定数を未知の関数で紐づけていた。
2つめの工夫は,原料ガス量と結晶組成の間に線形性の関係を付与した点。従来BOは,バンドギャップ波長や格子定数と原料ガス量の関係を未知の関数で紐づける。そのため誤予測をする場合があった。
PI-BOは,該当する材料の結晶組成と該当する原料ガス量の間に線形性の関係を紐づけ,線形性からずれる量について未知の関数を紐づける。そのため,ターゲットとする結晶組成と教師データの結晶組成の差を埋める原料ガス量の予測精度の向上が可能だという。
PI-BOを用いて目標とする結晶組成を得るための原料ガス量の条件を導き,その条件に基づいて成膜を行なった。その結果,6点の教師データから目標とする1180nm,InP基板と格子整合する結晶組成を1回で実現できた。
さらに目標とする物性値を変えてPI-BOの有効性を確認した。その結果,3回目の実験でほぼ目標値±10nmに近い値に到達することを確認した。4回目(N11)以降はターゲット収束する結果を確認した。
同社ではこの手法を,光通信用デバイスや光電融合デバイスの材料となる半導体薄膜の製造現場に広く展開することで,製造業務のDX化を進めていく。また,この技術を普及させ,これまで熟練の技術者に頼っていた半導体薄膜の製造ノウハウをデータとして蓄積し,次世代への技術継承に資するものにしていくとしている。