早稲田大学の研究グループは,テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し,長距離・広帯域伝送の実験に成功した(ニュースリリース)。
次世代移動通信システムBeyond5G/6Gシステムにおいて,テラヘルツ帯伝送システムは高速通信が担うことが期待されている。これまでは,マイクロ波帯(3GHz~30GHz)やミリ波帯(60GHz)が利用されてきた。
しかし,利用可能な周波数の帯域幅が限定されているため,伝送速度は数百Mb/sから数Gb/sが限界となっている。5年程度に実用化が想定されるD帯(110-170GHz)とならんで,より高い周波数帯の300GHz帯(252-296GHz)でも通信規格IEEE802.15.3d-2017の研究開発が近年活発に行なわれている。
今回,286.2GHzのテラヘルツ領域までに対応するアンテナ,送信機および受信機を試作した。高利得アンテナには,4系統のビームフォーミング対応で40dBicの高利得なレンズ付き右旋円偏波パッチアンテナと,47dBiの高利得なレンズ付き直線偏波コニカルホーンアンテナを開発した。
送受信RFアンプおよびミキサーには,情報通信研究機構(NICT)のプロジェクトにおける共同受託者である日本電信電話(NTT)先端集積デバイス研究所が開発したテラヘルツ帯RFデバイスを使用した。今回の伝送実験は,中心周波数を286.2GHzに設定し,位相制御された4系統のRF信号をアンテナ放射後に空間合成することで特定実験試験局に許可される範囲内の等価等方放射電力(EIRP)44dBmの高出力化を実現した。
早稲田アリーナ内で72.4mの距離に対して,帯域幅2.0GHzを使用した条件で,変調方式QPSK(伝送速度3.28Gb/s,16-QAM(伝送速度6.55Gb/s)および32-QAM(8.19Gb/s)を用いたOFDM伝送を確認した。
従来,300GHz帯ではSingle Carrier(SC)を用いた距離645mの通信およびOFDMを用いた距離10mの通信が報告されていた。今回は300GHz帯の周波数を利用した1Gb/s以上の伝送容量の通信において,OFDMとして距離70mを超える世界初の伝送実験となった。
研究グループは,OFDMはSCに比べて一般的にスペクトル効率が高く,マルチパスフェージングに強いとされており今後多くの用途での活用が期待されるとしている。