東北大学,高輝度光科学研究センター,島根大学は,光の透過性を高めるため,シリカガラスの透明度向上に必要な圧力が予測値の約5分の1で済むことを,初めて実験で実証した(ニュースリリース)。
情報伝達の要となるのが光通信ファイバーであり,その主材料であるシリカガラスの透明度を高めることで,より多くの情報を効率的に伝送することが可能となる。
これまで,溶融状態のシリカガラスを0.2万気圧で圧縮し,急冷により固めると透明性が向上することは知られていた。しかし,それ以上の圧力をかけた場合にガラスがどのような構造になるのか,また透明性がどのように変化するのかを実験的に明らかにした例はこれまでなかった。
計算による予測では,圧力を4万気圧まで上げることで,ガラスの構造が変化し,透明度が最も高くなるものの,それ以上の圧力では透明度が逆に低下すると予測されていた。
研究グループは,世界に2台しかない超高圧熱間等方圧加圧装置を用いて,1800℃下で最大0.98万気圧までの圧力を印加し,その後急冷することで最大で直径3cm長さ8cmのガラスを作製した。
このガラスについて,圧力を印加し作製したガラス内部の短距離(4~5 Å程度)や中距離(8~10Å)のネットワーク構造がどのように変化し,どのスケールの構造がレイリー散乱に影響を与えているかを詳細に解析した。
これまでも,ガラス内部のネットワーク構造にはわずかな「ゆらぎ」が存在し,それがレイリー散乱の主な原因であることが明らかになっており,圧力を加えることで,このゆらぎを引き起こす「空隙」が減少し,光散乱が抑えられることが分かっていた。
圧力の範囲を広げて作製したガラスに対して,さまざまな測定を組み合わせて行なった結果,この空隙の消滅と,ガラスを構成する原子ネットワークの中距離の秩序構造の消滅が同時に起こることを見出した。
中距離秩序構造の消滅に伴って,ネットワーク構造内の不安定な小さいリング構造の抑制が起こり,全体の構造がより秩序だったものになる現象が観測された。この現象は,余分なネットワークの剪定であるトポロジカルプルーニングとして予測されていた構造の変化によく合致していた。
また,トポロジカルプルーニングが起こり,シリカガラスの構造が安定となってシリカガラスの透明度が最も向上する圧力は,計算から予想された値の約5分の1の約0.8万気圧であることも分かった。
研究グループは,この最適な圧力が工業的に実現可能な範囲であることから,光の損失が低い超透明な光ファイバーの実用化に向けた重要な一歩となると考えられるとしている。