東大ら,軟X線分光顕微鏡で細胞の化学状態を可視化

東京大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センターは,化学状態の違いをもとに細胞内の微細構造を高分解能に観察できる,新たな元素イメージング技術を開発した(ニュースリリース)。

高い分解能とさまざまな物性分析技術を持つX線によるイメージングは,生物学や材料科学など幅広い領域において応用が行なわれている。

可視光と比較して2~3桁程度短い波長を持つ軟X線は,物質に含まれる電子の状態を調べるのに特に適しており,例えば軟X線吸収スペクトルを計測することで,材料やデバイス,細胞に含まれる微細構造だけでなく,原子の結合や価数といった化学状態を元素選択的に詳細に把握できる。

一方で,軟X線はその極端に短い波長のため,可視光と同じようなレンズを用いた顕微鏡を構築することができない。加えて,従来のゾーンプレートと呼ばれる微細パターンを利用した光学素子で構築した軟X線顕微鏡では色収差が大きく,試料の吸収スペクトルを高精度に計測する上でさまざまな困難が伴っていた。

研究グループは,独自開発のウォルターミラーと呼ばれる超高精度ミラーを導入した新たな軟X線顕微鏡を用いて,軟X線吸収スペクトルを高空間分解能・高感度に計測可能な,新たな元素・化学状態イメージング技術の開発に成功した。

軟X線の全反射現象を利用するウォルターミラーには色収差が原理的に存在しないため,さまざまな元素の軟X線吸収スペクトルをシームレスに取得することができ,計測時の精度が飛躍的に向上した。

実験は大型放射光施設SPring-8(BL07LSU)の高輝度軟X線を利用して実施し,タイコグラフィと呼ばれる計算機を用いたイメージング手法により行なわれた。窒素・酸素の化学状態を反映する軟X線の波長領域で,ND7/23と呼ばれるげっ歯類神経芽細胞を200枚以上にわたって計測した。

トヨタ自動車の開発した材料解析クラウドサービスWAVEBASEを利用し,取得した吸収スペクトルを確率論的主成分分析により解析したところ,細胞内部の構造に起因した窒素・酸素の結合や価数などの化学状態の違いを50nmの高空間分解能でマッピングすることに成功した。

単純な顕微鏡像からは識別困難なさまざまな未知の微細構造も捉えられていることから,研究グループは今後,生命科学や創薬研究などで新たな可能性を切り開くことが期待されるとしている。

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