京都工芸繊維大学と九州大学は,2005年から2023年までの京都市での調査により,大気汚染の大幅な改善が,街路樹の光合成を高めたことを明らかにした(ニュースリリース)。
道路沿いに植栽された街路樹には,光合成によって二酸化炭素を吸収しバイオマスとして蓄積する,日陰効果でヒートアイランド現象を緩和するなど,都市環境を改善する多くの利点がある。一方,都市部における樹木の光合成に影響を与える代表的なストレスとして大気汚染があり,特に自動車排気ガスに含まれる二酸化窒素は,慢性的な悪影響を引き起しうる。
日本の主要都市の二酸化窒素濃度は1990 年代半ば以降,着実に低下しているが,こうした日本の大気汚染の歴史的な改善が街路樹の光合成機能にどのような変化をもたらしたかについては,ほとんど研究報告はなかった。
研究グループは,大気汚染に対する街路樹の光合成応答を評価するために,光合成速度に加えて,植物へのストレス指標となる,値光合成の水利用効率という2つの性質に注目。京都市,南丹市,大津市を調査地とし,日本の代表的な街路樹であるイチョウ,サクラ,ツツジを対象として,大気汚染に対する光合成応答を2005年から18年間にわたって調査した。
その結果,2020-2023年と2005-2008年とを比べると,この15 年間で大気汚染物質である二酸化窒素濃度は60%も低下し,街路樹であるツツジやサクラの光合成は25%増加し,水利用効率は減少していた。二酸化窒素濃度の低下は,自動車NOx法の制定や改正によるトラックの環境性能改善による効果が大きいとする。一方,イチョウについては,この15年間で光合成の変化はみられなかったという。
また,2020年〜2023年のコロナの流行は経済活動の停滞から交通量の減少を引き起こしたが,二酸化窒素濃度の低下は5%程度に過ぎず,街路樹の光合成を改善することはなく,水利用効率にも変化はなかったという。コロナ流行によって大気汚染が改善されたことは世界各地で報告されているが,日本においてはすでに大気汚染が改善されていたこともあり,街路樹の光合成を高めるほどの変化はなかったとする。
今後電気自動車(EV車)の導入によって自動車から排出される大気汚染物質の量が大幅に減少すれば,特に交通量が多い都心部で,街路樹の光合成能力が大きく改善される見込みがある。研究グループは,今後の環境対策の効果をエビデンスとして得るためには,継続的な大気環境のモニタリングと,光合成機能の調査が必要だとしている。