東京大学,島根大学,独ブレーメン大学,早稲田大学は,単細胞の動物プランクトンである浮遊性有孔虫の進化史に,光共生が深く関わってきたことを明らかにした(ニュースリリース)。
微細藻類との細胞内共生である「光共生」は,サンゴと褐虫藻の関係性が有名だが,さまざまな海洋プランクトンにおいても知られている。しかし,光共生のパートナーシップや,その特異性,進化的意義については未解明のままだった。
研究グループは,遊性有孔虫の光共生に着眼し,光共生が進化の過程で何度獲得され,地球環境変動とどのように関わってきたのかを調査した。
浮遊性有孔虫の主要な3系統を網羅する19種122個体を対象に,DNAメタバーコーディング解析を行なうことで,1個体の中に共生している藻類を網羅的に明らかにした。また,アクティブ蛍光法により,共生系の光環境に対する応答を明らかにし,宿主の生息水深との関係性と,その共生藻がどのような進化的タイムスケールで獲得されてきたかを,化石記録の年代で較正した分子系統解析を用いて明らかにした。
この研究の結果,現生種につながる浮遊性有孔虫の進化の過程で,光共生の獲得回数は少なくとも計8回に及ぶことが明らかとなった。また,渦鞭毛藻を共生させるグループは単系統であり,光共生の起源が少なくとも漸進世以前に遡ることが明らかになった。一方で,それ以降の光共生の獲得は,渦鞭毛藻の獲得から約2000万年間みられず,中新世の後期以降になってはじめて,ペラゴ藻が様々な宿主系統で繰り返し独立に獲得されていた。
共生パートナーシップの特異性に着眼すると,渦鞭毛藻を有する種では強固なパートナーシップが確立されているものの,ペラゴ藻を有する種では共生藻になりうる種類が複数存在する可能性が示され,光共生する宿主系統の古さと,特異性の高さとの関係性も見出された。
さらに,ペラゴ藻を共生させる種は,より低照度に適応していることが光合成生理状態の解析から明らかになり,より深い水深でも光合成できる藻類を獲得できたことが,宿主のニッチ拡大に貢献した可能性が示唆された。
ペラゴ藻が様々な宿主系統で繰り返し独立に獲得された後期中新世は,地球規模で寒冷化が進行した時期にあたり,この寒冷化は,深層への有機物輸送を促し,より深層に浮遊性有孔虫のニッチを拡大させるきっかけとなったことが先行研究でも示唆されている。今回の研究の結果では,同時代に,より深層に適応した光共生も進化したことが示された。
研究グループは,この成果は,外洋域生態系における,プランクトンのニッチ形成メカニズムを理解することへの貢献が期待されるとしている。